第2話 孤島
バスに揺られ、一時間。その間、窓はスモークを掛けられ、風景を楽しむ事も出来なかった。
俺は、携帯ゲーム機を持って行ったから平気だったが。
見たことの無い港に着き、フェリーへ。ここでも、風景を見る事は出来なかった。
何故だろう?高々新薬の治験に、場所を知られる事がそんなに問題になるのか?
でも、あの時給だ。文句を言わず、船酔いに耐える。――流石に、フェリーの中でゲームは出来なかった。
高速フェリーなのか、速度が速い分、波での揺れは少ないが、それでも、その振動の中で下を向いてゲームしていたら、確実に船酔いする。
かなり沖にある島らしくて、船に揺られている時間は長かった。
3時間ほどだろうか。スマホの持ち込みは禁じられていたから、他に時計を持っていない俺には、正確な時間は分からなかったが。
着いてみれば、小さな島だった。ただ、水平線の彼方まで、他に陸地は見つからなかった。
そこまでして、隔離する理由は?現段階では分からない。
まずは、集会所に集められた。島中に聞こえる程の音量で鳴らすと言われたサイレンが鳴った時には、ココに集まって欲しいとのことだった。食事も、基本はココで提供されるらしい。タダで。
贅沢を言わない限り、食費が掛からないのだ。コレは、大きい。
贅沢しなかったら、給料を全部、丸々残せるかも知れない。
「さて。まずは、ココでの暮らしに慣れて下さい。
三日間は、その為に費やします。
新薬については、三日後の夕食後に、ここで説明しますので、その日だけは、必ずココに来て下さい」
まず、遅めの昼食が提供された。未だ吐き気の残る俺は、素うどんを軽く食べただけ。
それから、各人の個室に案内されて、俺は早速、ゲームの準備。
質問して知っていたことだが、テレビはある。それも、中々に迫力のあるサイズの奴だった。
個室に用意されているのは、他にはベッドやテーブル、ポット、トイレ程度で、風呂は男女別だが、共用の銭湯のような場所で。但し、費用は掛からない。洗濯も、共用の場所があるが、10台程、洗濯・乾燥機が用意されていた。全自動の、中々良い奴だ。
調理スペースも共用だが、俺は、まず使わないだろう。
ポットでお湯を沸かせば、コーヒー・お茶類・カップ麺も何とかなる。
しかし、この小さな島で、上下水道完備は大したものだ。
ただの新薬の治験の為に、一体、どの位の費用が掛かっているのだろうか?
本当に、生活に困るような事はほとんど無い。掃除機だって、10台、共用に用意されている。アイロンは、需要が少ないと見たのか、5台だったが。
不自由と云えば、スマホが無い位のものだ。インターネットも駄目。とにかく、外部と接する手段だけは、徹底的に排除されていた。
さて。準備も済んだ。今夜は、この迫力のあるテレビでゲーム三昧だ!……と思っていたのだが。
コンコンッ。
僅かだが、ノックの音が聞こえた。無視する訳にも行くまい。
とりあえず「はーい」と返事をしてから出口へと向かう。
扉を開けると、待っていたのは白衣の男性だった。
「皆さん、スマホが全く無いと不便かと思いまして。この島の中だけで使えるスマホです。
予め、申し込み書類の中から、お名前、電話番号、メールアドレスを、同一のものではありますが、登録してあります。
島の内部で必要になった場合には、ご利用下さい。治験の終了時に回収致します」
「え?スマホの電波を繋ぐ施設は無いって聞いてましたけど……」
「かなり限定的に、この島の中だけで、このスマホに限って、使えます。
一般のスマホを持ち込んでいれば分かる事ですが、電波が立っているかどうかは別として、日本にも、或いは他の国や地域とも、電波と云う環境では独立しています。
スミマセン、急ぐもので。詳しい事を知りたいのでしたら、後ほど」
用件だけ伝えると、そそくさと去って行った。人数が多いから、急ぎで回っているのだろう。
スマホが入っているのであろう箱には、識別番号と俺の名前が記されていた。
部屋には入り口に識別番号と名前、ついでに顔写真まで貼ってあるから、本人から確認を取る手間も省いて、あちらで勝手に確認していたのだろう。
でも、何故、そんなに急いで?
その理由は、夕方に分かった。
『ご飯です』