第8話 布袋様の袋
ターン。……ターン。
矢が獲物を突き刺す、叩くような音が聞こえてくる。
その矢は、自動的に修復・回収され、クィーバー――矢筒に回収される。
既に兎の魔物を三羽、鹿の魔物を一頭仕留めている。コレで、鹿が二頭目だ。
「――凄まじい腕前だな」
毘沙門天がそう言ったのは、俺が「狩りはほぼほぼ初心者」と話したのを差し引いた話だろう。
「ハハハッ。装備も良い物を揃えましたからね」
「いや、それにしても、クリティカルヒットが多過ぎる」
「――ハ?」
毘沙門天の多聞さんは、俺を過剰な程、高評価してくれているらしい。
「いや、それは運が良いだけでは無いですか?」
「アルテミスも、ココまでクリティカルを繰り返す事は無かった」
「……まぁ、英語ではMoonとLuckは別物ですからねぇ……」
日本語では、月とツキは同音だし、何らかの因果関係があると考えてもそう間違いとも言い切れぬだろう。
「でも、腕前ではアルテミス様の方が上手でしょう?」
何しろ、狩猟を司っている女神様だ。矢を放つペースでは、圧倒的にアルテミス様に軍配が上がる。
「――この面子なら、もう少し上の狩り場でも通用するな……」
多聞さんのそんな呟きを聞き流しながら、鹿の解体を手伝い、布袋様の袋に詰める。どうやら、容量無限大、状態の変化無し、重量無視の三つの効果が付いた、とても貴重な袋らしい。――作れるらしいが。
皆が欲しがるので、と、布袋様は全員分の同じ袋を用意し、配ってくれた。
ただ、この無駄に膨らむ作用だけは何とかしてから作り直して渡して欲しかった。風が強いと、身体が持って行かれそうだ。
紐で口を縛って、肩から背中に担ぐようにする。コレで、風が強く吹くのでも無ければ、然程邪魔にもならない。
……コレ、今日で一番の収穫じゃないだろうか?
俺はそう思ったものの、その気持ちを口にする愚だけは犯さなかった。
周囲を見渡すと、他の皆も似たような思いを抱いていたらしく、ならばと。
「俺は、今回の俺の分の収穫を、全て布袋様に捧げる!」
そう宣言すると、俺も俺も、私も私もと、皆が続いた。
よって、今日のMVPは布袋様と相成った。
いや、自分の持っているチートを配るのだから、その位の評価を受けて然るべきだろう。
こうして、俺の初のパーティ戦は終わった。
ゴブリンとは、今回、遭遇しなかったので、狩った獲物の数は少ない。
だが、この経験が、『経験値』となってレベル上昇に繋がる。
スキルガチャを出来る程度のミッションすら達成していないが、『月詠尊』としての経験値が上がったから、それで良いのだ。