第44話 準優勝祝賀会
「おめでとうございます、アイオロス様!」
開かれたのは、準優勝祝賀会。優勝は、やはりウォーディンだった。
ルシファーも、遅かった訳では無い。
だが、こっそりアイオロスが翼を切ると、墜落してしまった。
それでも持ち直して、何とか3位に入ったのだから、大したものだ。
アイオロスがレース終了後、ルシファーに罵倒されたのは言うまでもあるまい。
だが、ルールに違反した訳では無い。アイオロスは知らん顔をしてやり過ごした。
ウォーディンは、盾を手にした直後、その盾をいとも簡単に破壊してしまった。
それを見たルシファーは、「他のアルフェリオン製品を探し出してみせる!」と言って姿を消した。
事情を知らない人たちが、驚愕した事もまた、敢えて言うまでも無かっただろうか。
賭けは、大勝ち。ウォーディンは、大穴中の大穴。倍率は100倍を超えた。
普通に持ち歩くことの出来ない巨額の銀を、クィーリーは弓と同じく亜空間にしまっておいた。
因みに、アイオロスの翼はレース終了後、興奮が冷めると消え去ってしまった。
意識的に出し入れ出来る訳では無いようだった。
「アイオロス様って、アークエンジェルだったんですね。素敵♪」
そう言ったのはクィーリー。フラッドとトールも驚いていた。
「まさか、僕も僕がアークエンジェルだとは思っていなかったよ。お陰で、二位になれたんだけど。
……そう云えば、クィーリー。途中で、僕のフライトアーマーの能力を、遠距離から増幅したよね?
魔法って、何でもありだとは思っていたけど、そこまで出来るとは思っていなかったよ」
「アイオロス様に、レース直前にお守りを渡しましたよね?アレの能力を発揮させただけですよ」
ああ、そうかと思う。
「――ひょっとして、例の正体不明だったマジックアイテムの一つとか?」
「はい。一部のマジック・アイテムの能力を増幅する効果があります。
私でなく、ウォーディンさん位の人が魔力を再封入をすれば、魔法そのものの増幅も出来る、優れものの筈なんですけど」
「――ひょっとして、遠距離での会話も?」
「いえ、それは私の魔法です。
そんな話より、どんどん飲んで下さい。儲かった事ですし、騒ぎましょうよ♪」
「俺も、ウォーディンさんの方にも賭けておいて、本っ当に良かった!
お前も賭ければ良かったのに。もう、しばらくは金に困らないぜ!」
大ジョッキにいっぱいの酒を――それも、けっこう高くて旨いヤツだ――呷るトール。ご機嫌である。
「そんなことより、あの二人について、アイオロスさんから詳しく話を聞きたいわ。
何か、話した?」
「――あの二人って、ウォーディン師匠とルシファーの事ですか?
大した事は話していませんよ。
ただ、エンジェル騒動がルシファーの仕業だと分かって、彼も現状ほどにはやるつもりは無く、目的もあったことを知った程度で。
共感出来る部分はありましたよ。けど、全面的に認める気にはなれないですね。
もう少し妥協するつもりがあれば、二人が協調出来る可能性もあると思うんですけど……」
「奴は、妥協するつもりは無いだろうよ」
「――!
師匠!どうしてここに――」
気が付けば、ウォーディンが輪に混じって酒を飲んでいた。その後ろに、アイオロスにしか見覚えの無い女性も立っていた。
「話し合いたいと提案したのは、お前だろう。ルシファーは、盾が無ければもう用は無いとばかりに去ったがな。
久し振りだな、エマ、フラッド、トール。
仲間のエンジェルとは、エマの事だったんだな」
「お久しぶりです、ウォーディンさん。
言われた通り、水月のマスターたるべき人物に、付き従っています。
これで、良かったんですよね?」
ウォーディンの右の眉が、ひょいと持ち上がる。
「――そうか。水月の封印が解かれたか。
主がアイオロスと云うのは、まあ、順当なところだろう。
――エンジェルに、その刀、狙われなかったか?」
少し考えてから、アイオロスは答えた。
「――この刀を狙われて、ということでは覚えがありませんけど、入手直後にその研究所がエンジェルの襲撃を受けました。
それがどうかしましたか?」
「ルシファーは、アルフェリオン製品を探して持ち帰るように命令したエンジェルを、数多く従えている。
水月の封印は、その存在を感知されない為の処置だったのだが……」
「――師匠って、一体、歳は幾つなんですか?
話を聞いていると、随分前から、クィーリー……つまりエマの事なんですが、彼女の様な特別な処置を受ける事無く、生き続けていたようですけど」
「100前後だろう。
私は、普通の人間では無いから、老いも寿命も知らない。
そして、私の主たる、彼女もな」
大した事では無い、とでも言いたげた。
「初めまして、皆さん。――って、アイオロスさんとは何度か、面識があるんですよね。
覚えてますか?」
「ええ。イリスさん、でしたよね?
たまに、師匠に会いに来ていたのを覚えています。
――でも、師匠の主って、どういう意味なんですか?」
「――私が、賢者の石の第一発見者なのよ。それに名前を付ける事で、支配してしまったの。
だから、私が真名を知られる事の危険性を噂として広めたんだけど……。
知ってる?本当の賢者の石は、普通の人間の目には見えないものだったの。
それを核としてアルフェリオンと云う特殊金属結晶を構成する事によって、初めて魔女である私以外の人間の目にも見えるようになったのよ。
まあ、今では言語魔法と云う、言葉に力を与える事で、人間も魔法を使ったり感知する事が出来るようになったから、多分、ゼフィア――失礼、この人の古い名前なんだけど、彼の核となっている賢者の石を見る事も出来るんだと思うんだけど」
「――師匠の、核?」
意味を、イマイチ理解出来ずにいるアイオロス。イリスは助け舟を出した。
「普通の人間じゃないって言ったでしょう?
つまり彼は、アルフェリオンの塊なの。
そう言っても理解して貰えないかも知れないけど、その内分かるわ」
「だから、魔法を使う能力が高いんですか?」
「ええ。
言語魔法が、全て彼の力を借りることによるものと云えば、多少はそれを理解していただけるかしら?」
「――!そんなに!」
「――で?あなたはどの位なの?」
何故か、射るような眼差しでイリスを睨む、フラッドが問う。
「少なくとも、あなたよりは使えるわ、エルフのお嬢さん」
止せば良いのに、イリスの態度は挑発気味。
「大した自信ねぇ。なら、ほんの少し、障りだけでも見せて貰いましょうか?」
「どうやって?」
「分からないの?ソレで良く、私より上と言えるものねぇ。
ウォーディンさんは、当然、分かっていますよね?」
「……ココを包囲する、殺気立ったエンジェルの群れについて言っているのか?」
酔ったトールは勿論、アイオロスも気付かなかった。
「ええ。何が目的かは知らないけど。
イリスさん。あなたの実力で、生き延びられれば良いですけどねぇ」
「大丈夫よ、ゼフィアが守ってくれるもの」
「思い出した!」