第38話 マジック・アイテム
「何て云うか、お二人の鑑定眼は凄いですね」
二人が買い漁ったマジック・アイテムは、一見、確かにクズばかりだった。
だが、それを見たクィーリーが、何の説明も無く、すぐさま買い取って持ち帰る事を提案した。
理由あってのことだろうと、アイオロスはそれに従った。
帰る途中、サーッと話を聞くと、それらのアイテムは、確かにマジック・アイテムなのだが、かけられた魔法が消えかかっているものばかりなのだと云う。
それを、クィーリーの力を以って然るべき処置をすると、すぐに元通りの性能を取り戻すものばかりらしいのだ。
中でもアイオロスは、本来は魔法の弾丸を無限に打ち出す事が可能な拳銃をいたく気に入っていた。
今はその拳銃は、弾丸と云うのも馬鹿らしい程の、そよ風程度の弾丸が吹き出すだけ(実弾と比べたら、の喩えで、実際は、目玉に直撃すれば失明させる程度の威力はある)。
ただ、銃声だけはやけに大きいものだった。
アイオロスの用途から考えると、そちらの方がかえって都合が良い程だ。
他には、トールには丁度良い大きさの金属鎧もあった。
安かったのは、大き過ぎるのが原因。
それもその筈、クィーリーの話によれば、それはジャイアントの為に作られた鎧なのだ。
そして、魔力を拭き込んでやれば、様々な属性の結界を展開出来るのだと云う。
空を飛ぶことは出来ないが、一度、空中に持ち上げてやれば、落下速度を殆ど無きに等しいレベルまで落とす事も可能らしい。
移動も不可能では無いが、速度がかなり遅いとの事。持ち上げる際の重さも、軽減するのだとか。
これで、全員、一応の空中戦は可能になったと云う事になる。
ついでに一つ、オークションには出なかったが、総アルフェリオン製の盾と云うのも見て来た。
それは、来週に行われる、フライトレースの賞品になるのだとか。
実は、フライトは呪文を唱えれば、人間にも使える魔法の一つだ。
ルールは一つ。空を飛んで、先にゴールした人が勝ち。
優勝者には、そのアルフェリオン製の盾が贈られるらしい。
アイオロスはソレに出場し、その盾を売り払うつもりでいた。
特殊能力が特に無いのが、その原因。
但し、全てのアルフェリオン製品は、魔法の発動体としての能力があるので、それだけでも、欲しい者にとっては大枚を叩くだけの価値がある代物だ。
出来れば、レースにはクィーリーも参加させたいところだが、彼女は翼を広げないと飛べないと云う事なので、今回は見合わせる事にした。
実はそのレース、何でも毎年、恒例として行われるようになった行事だそうで、今年で8回目になるらしい。
パンデモニウムで借りた部屋へ戻っても、フラッドは居なかった。
トールが彼等の方で借りたホテルに向かうと、彼女はそこにいたらしいのだが、しばらく一人にして欲しい、夕食前には合流する、とのことだった。
そう云う訳で、購入したマジック・アイテムを加工する時間が出来た訳である。
だが、半分以上が秘めた能力に関する情報が一切無く、クィーリーが鑑定しても、未だ能力が分からないのがその内の大半を占めていた。
「そう云えば、あの弓はどうしたんだ?」
トールにそう訊かれると、クィーリーは虚空からあの弓を取り出した。
購入したバックパックにも似たような能力を持つバックパックがあったのだが、物を亜空間に収納しておく能力が、彼女にはあるのだと云う。
翼を収納した状態でも使える魔法の中では、トップクラスに位置する便利な能力なのだそうだ。
「用途の分からないものは、売却した方が良いかも知れませんね」
「能力が分かっていないと、安く買い叩かれてしまうんだけど……」
「――分かりました。徹夜してでも、能力の解明の努力をします!」
「徹夜は止めた方が良いね。健康や美容に、その他色々と良くない」
「では、フライトレースがある一週間後迄には」
「頼むよ」
「任せて下さい!」
気合が入ったようだ。他ならぬ、アイオロスの頼みとあって。
そちらが解決すると、トールはもう一つの問題に気が向いた。
「で?アイオロスさん。レースに自信はあるのかい?」