第37話 堕天使ルシファー
「――知っているんですか?」
「ああ。最初のエンジェル、但し、堕天使だ。
エンジェル・プロジェクトは、そのルシファーを討つために進められたと言っても過言じゃない。
だから、制御面もEMAまでは物凄く慎重だった。
だが、やがてルシファーを知る研究員が少なくなったことで、エンジェルはただの優秀な人類として生み出されるようになり、暴走した。
俺でも知ってる、有名な話だゼ?」
「私も知っています。
私も、ウォーディンさんに言われました。
『お前を上回る能力を持つエンジェルが、この世に一人だけ居る。
名前だけは教えておくが、ルシファーと云う名のエンジェルがそうだ。
お前はそいつを討つと云う目的の為に作られた、過去第二位の強さを持つ優秀なエンジェルだ。
それを忘れるな』って」
「へぇ……。有名人なんですか。
当然、フラッドさんも知っているんですよね?」
「――へ?」
フラッドの口から洩れた、腑抜けた声。
「え、ええ。
――悪い、トール。二人を案内してあげて。
私、ちょっとホテルに帰るわ」
「どうしたんですか?何て言うか……様子がおかしいですよ?」
「――ゴメンナサイ、アイオロスさん。
今、ちょっと一人になりたい気分なの。交渉は、任せるから」
「あ、それなら、この街のパンデモニウムで僕の名前を出して、名乗って下さい。
六人部屋ですが、特別室を用意して貰えましたから。
良かったら、その部屋に一緒に泊まりましょう。
食事も用意して下さるとの話でしたから」
「――気が向いたら行くわ。
じゃあね」
「……どうしたんでしょうね?」
クィーリーも、それを不思議がる。フラッドは、人ごみの向こうに消えた。
「さあな。俺でも分からねェんだ。アンタらに分からなくても……いや、待てよ。
勘が良ければ、頭の悪い俺よりは予想がつくのかも知れねェな。
どう思う、アイオロスさん?」
「さあ?僕も、そんなに勘は鋭くないですから。
クィーリーは?女性の勘は鋭いって言われているけど」
「さあ?」
小首を傾げるクィーリー。
「――ただ、これだけは言えるでしょうね。
フラッドさんは、ルシファーと何らかの関係があると。
……ひょっとして、彼女の言ったナンバー1が……ルシファー?」
即座に、トールが身振りでそれを否定した。
「アイツにだって、その位の善悪の区別はつくだろう。それはねェよ。
第一、アイツもルシファーに会った事は無い筈だ」
「……僕は、クィーリーの言った可能性があり得るようで、非常に怖いのですが……。
――まさか、ねぇ?」
「ンじゃ、クズを引き取りに行こうか。
全部で確か……約10万ドルと言われていた筈なんだが、その中身がだなぁ――」
「いや、それを聞くのは現物を見るまで期待して待ちます。
クズと言われていた筈の物が、実は凄いアイテムだと云う可能性を信じて。
鑑定は任せるよ、クィーリー」
「はい、アイオロス様」
アイオロスは、振り返った。フラッドが行き去った先を。
だが、今は自分がすべき事へと気持ちを入れ替えた。