第35話 惚気話
「遅かったわね」
四人が再び出会ったのは、三日後。
「オークション、終わっちゃったわよ。幾つか、手付金だけ払って、マジック・アイテムを買い取る約束だけしておいたけど」
ダルそうに、フラッドが言った。
その街は、兎に角、暑い!南に1000㎞も移動しただけに、アイオロスとクィーリーの格好が、見るだけでも嫌になるぐらいに。
「どうでした?」
「クズばっかり。
そっちは?」
「翼を運ぶのが大変でしたよ。お陰で、かなりの収入がありましたが。
「こっちも大変だったのよ。出費が嵩んで。
この街のパンデモニウム、空いてる部屋が無いのよ。オークションの噂を聞き付けて、人が集まったものだから。
安モーテルも満室なもンだから、ホテル暮らしよ。ちょっと、割に合わないかも知れないわ」
「じゃ、手数料ってことで、これをどうぞ」
アイオロスが差し出した、一本の銀の延べ棒。
「それほどは掛かってないけど、くれるものは頂いておくわ。
じゃ、早速、現物とご対面と行きましょうか」
フラッドに先導され、一行は歩く。
「……どうでも良いけど、そのコート、脱がない?見ているだけでも暑苦しくなるじゃない」
「そうですか?
僕は、フライトアーマーの能力を応用して、この中で風を対流させていますから、然程暑くは無いんですけど。
むしろ、着ていないと風が逃げて暑くなる上、日焼けもしますし、コートが荷物にもなりますから、この方が都合が良いんですが」
それで平気な顔をしているのかと、納得してフラッドは更にクィーリーにも問い掛けた。
「クィーリーちゃんは?」
「冷気の魔法がありますから。それを逃がさない為にも、ローブは必要です」
「良いわねー、魔法が得意な人は。
私って、エルフの中じゃ、魔法が苦手な方なもンだから」
「えっ?エルフってそんなに沢山いたんですか?」
「――少ないわ。けど、その中でも、って意味よ!
ちょっと得意だからって、それこそ得意になっちゃって。気に入らない娘ねぇ。
それで?初夜のご感想は?」
「最高の夜でした♪」
「あ、そう。……ますます気に入らない。
私だって、こんなデカブツより、アイオロスさんみたいなハンサムの方が良いってのよね。
襲い掛かって来ないのが、唯一の救いだわ」
「お二方は、そう云う男女の関係は無いんですか?」
それはマズい!と思いながらも、アイオロスは惚気ているようなクィーリーの態度が、傍目に恥ずかしく思っていて、止められなかった。
「誰がこんな奴と!幾ら金を積まれても御免だわ!
私はあなたと違って、見境なしじゃないのよ!」
「私だって、相手がアイオロス様じゃなく、トールさんならお断りだったかも知れませんよ?
フラッドさんだって、相手がアイオロス様だったら、ちょっとは考えますよね?」
「――ま、そりゃあね。……だから益々気に入らないってのに、聞くな、っての!」
ブツブツと、フラッドが文句を言う。
「僕から見ると、トールさんって破壊力ありそうに見えるんですけどねぇ。
それよりも、こんな優男の方が良いんですか?」
「フンッ!自分で優男って言うだなんて、分かってるじゃない。
あなたに文句を付けるとするなら、男らしさが少し足りないかしら?」
「それを言うなら、トールさんは男らしくて良いように見えるんですけど」
「私は馬鹿は嫌いなの!それに……好きな人の一人ぐらい、居るんだから……」
「へぇ……。ひょっとして、ウォーディンさんですか?」
アイオロスの口から出た名前に、フラッドは振り向いて、顔を真っ赤にして立ち止まった。
「な、何で知ってるのよ!」