第33話 オークション情報
「さて。まずは、僕から話しておきたいこともありますし、部屋に行きましょうか」
「ちょっと待って。
その弓、20万で買い取って貰いましょうよ。そしてそれを資金に、そのオークションに参加して、良いマジック・アイテムを何点か購入すれば、その弓を持っているより有効なんじゃないかしら?」
そう言い出したフラッドを、店員は心の中で応援した。
「けど、この弓より優秀なマジック・アイテムが出品されて、それを20万以内で購入できると云う保証はありませんから」
「確かに、一点のマジック・アイテムに関して言えば、そうかも知れないわ。
でも、20万なんて大金があったら、そこそこ優秀なものを、数点、買う事も出来るんじゃないかしら?
そうしたら、その弓を持っているより得なんじゃないかしら?」
「コレクターが、そこそこのものを、それなりの数、持っているとでも?」
「――持っていないものなの?」
アイオロスは、呆れたような顔をした。
「当然じゃないですか。
良いですか。マジック・アイテムのコレクターになるには、どうするにしたって、莫大なお金が必要なんですよ?
そんなお金を払って、そこそこのものをそれなりの数、集めても、売る時には買った時の半額が良いところでしょうね。つまりは、その程度の価値しか無い、と云う事です。
ですが、そこそこのものをそれなりの数、集めるのと同じだけのお金を使えば、例え一点でも、買った時の倍から数十倍、僕の知っている限りでは、最高で数千倍の値段で売ることが出来るんですよ?
何故、そんなことが起こるのかと云うと、マジック・アイテムには、大抵、説明書がついていないことが原因として挙げられます。
そこでそのマジック・アイテムを魔法使いに依頼して、その能力の鑑定を行って貰ってから売ると、とんでもない値段が付けられる事があるんです。
では、どうして最初の持ち主が鑑定を行ってから売らないのかと云うと、マジック・アイテムの最初の取得者は、『トレジャー・ハンター』と呼ばれる、まあ、デビルに近い存在であることが多いからです。
彼等は、マジック・アイテムであるか否かの判定を行って貰う為、ほぼ100%、魔法使いをパーティーに加えているのですが、肝心なのは、それらの魔法使いが、マジック・アイテムの能力の鑑定を行える訳では、決して無くて、魔力が込められているのかどうか、或いは、どれだけの強さの魔力を込められているのか、まあ、その魔力がいつになったら消えてしまうのかと云う事を鑑定するのがせいぜいです。
何故なら、マジック・アイテムの能力の鑑定を行えるほどの能力者は、コレクターに雇って貰い、それを行うと云うそれだけで、それなりに裕福な生活を過ごせるものだからなのです。
ですから、まず間違いなく、優秀なマジック・アイテムを自分で見つけて、一獲千金を狙う様な真似はしないでしょう。
僕が魔法科学研究所で『水月』を手に入れた時、そこにクィーリーが居たように、優秀なマジックアイテムが埋もれているとしたら、そこはほぼ間違いなく魔法科学研究所。そして、そこにはそれもほぼ間違いなくエンジェルが居る。
優秀なマジックアイテムを手に入れる代償として、エンジェルに襲われる危険性が高いと云う条件では、割に合いませんからね。
人間の魔法使いが、一体が相手でも無理だと云うのに、複数のエンジェルに襲われる危険性があるんですからね。
僕は、まぁ、自分で言うのも何ですが、超一流の剣士と自負しているものですから、そんな無謀な事をしているんですけど。
何度か、クズみたいなマジック・アイテムの鑑定を、高いお金を出して優秀な魔法使いにお願いした事もあります。泣きそうになりますよ、アレは。
まぁ、エンジェルの翼に、パンデモニウムがそれなりの賞金を出してくれているので、何とかなっていますけど。
噂で僕の事を知っていた魔法使いに、一度、クズみたいなマジック・アイテムを鑑定して貰った時には、『応援していますよ』と云うメッセージと共に、鑑定料の半額を返してくれた事もあった位ですからね。
能力の鑑定できるレベルの魔法使いは、世の中にどれだけ、優秀なマジック・アイテムが少ないのかを良く知っています。
だから、一獲千金を狙って自分でマジック・アイテムの探索に行くような真似は、ベテランならしない筈です。
僕のように、取得したマジック・アイテムの能力の鑑定を、専門の魔法使いに頼む人は、少ないですしね。
人によって違いますが、中にはベラボーな大金を代金として請求して来ることも多いですから。
……そうそう、肝心なのは、店員さんが教えてくれた、そのオークションに出されるマジック・アイテムをコレクションしていたという元の持ち主が、『有名なコレクター』であるという点です。
こうも言っていましたね。その人が『唸る程の財を一代で手に入れた』人だと。
そこから推測するに、マジック・アイテムの売買も行っていた可能性が高いです。
かなりの元手が掛かりますが、上手く行けば、それに見合うと云う程度では済まない程の大金を手にすることが出来ます。
何しろ、マジック・アイテムの用途が、持ち主の望む能力を持っている事は稀ですから。
その為には、その人物か、或いはその人の雇った魔法使いが、ある程度以上の鑑定眼を持っていたという事になります。
だとすると、遺されたコレクションは、売るには勿体無い自分で使う物、或いは価値が高過ぎて商売にならない程の物が眠っている可能性が高いと云う事になりますよね?
それこそ、僕らでは手が出ない程の物が。
まさか、売っても二束三文にしかならない程度の物を大量に集めて、有名なコレクターになったわけでは無いでしょうし。
当然、本人にとって都合の良いマジック・アイテムが多く出て来る可能性もありますが、それが僕らにとって役に立つマジック・アイテムである可能性は低いでしょう」
そのアイオロスの説明に、フラッドは納得しなかった。
「だとすると、余計にその弓を引き取って貰った方が良いんじゃないかしら?
かなりの値打ち物が揃っているんでしょう?
で、それは私たちが誰一人として、今まで知らなかった程の、マイナーなオークション。
そこに出て来る、突拍子も無い程の価値のあるマジック・アイテム。
そして、その価値と比べて余りにも安すぎるその値段。
資金として、20万は大きいんじゃないの?」
「僕は、この弓には最低でも100万の価値があると思っていますよ。
この弓に限らず、アルフェリオン製品は、最低でも50万と言われています。
それをたった20万にするなんて、とんでもない!
有名なコレクターと云う事は、お抱えの魔法鑑定士がいる筈。
と云う事は、アルフェリオン製品は一発で分かります。
となると、アルフェリオン製品は、オークションでは最低でも50万スタート。
多分、そんなものは無いと思いますが、あったとしても、20万では足りないですね。
その上、ソレがこの弓を上回る能力がある可能性は、極めて低いと考えて良いでしょう。
それに、問題はそれだけではありません。
マジック・アイテムのコレクターが、ソレの売買を元に成り上がったと考えれば――今のご時勢、それ以外に一代で成り上がる可能性は極めて低いですから、それなりの流通経路が、既にある筈。
その流通に関わった人達は、恐らくそのオークションに参加して来るでしょう。
だとしたら、破格の安値と言っても、その安さには限界がありますよ。
ただ単に、高値がつくとしても高が知れていると云う程度だと考えておけば良いでしょう。
ま、お金が足りなくて、この弓以上のものを手に入れられそうだったら、先に手付金だけ払っておいて、この弓を売れば済むだけの事でしょう。
しっかりとしたマジック・アイテムの流通経路が確立されている街ならば、この弓、能力が分かっている事を考慮に入れると、最低でも50万、アルフェリオン製品である事を修正に入れれば、100万で買い取ってくれる人の一人や二人、店の一軒や二軒はあるでしょう。
僕が提案したいのは、道中、エンジェルを狩って、オークションでマジック・アイテムを買う資金にしたいと云う事なんですが……」
その意味を、フラッドは誤解した。
「――あの裏技を使って?」
「いえいえ。
ココから南に1000㎞なら、多少の遠回りをすれば、僕が一度立ち寄った魔法科学研究所で、エンジェルの群れに襲われた場所があるのですが、そこのエンジェルを狩って賞金を貰うと云う手を使いたいのですが……」
「――寄って、オークションに間に合う?」