小競り合い

第26話 小競り合い

「――僕には、現実逃避の極致にしか思えない……」

 アイオロスは、頭を抱え込んでしまった。
 
「ところで、アイオロスさん。

 私が一発、花火を上げるから、その爆音で驚いたエンジェルたちを、あなたの剣技でなるべく多い数、始末して貰えないかしら?」
 
「さっきのファイア・ボールですか?

 良いですよ。出来れば、音だけを出す方法があればベストなんですけど。無理ですか?
 
 火の玉を見せてからの爆音は、エンジェル達も警戒しますから、あまり効果的じゃないんですよね」
 
「あ、そうなの。なら、そうするわ」

「そんな魔法のストックがあるのですか?」

「ええ、一応ね。

 あなたまでビックリしないよう、心の準備はしておいて下さいね」
 
「分かりました」

 やがて、クィーリーと彼女の召喚したエンジェルも上がって来た。
 
 クィーリーは、飛ぶ為に翼を広げる必要があるのだろう。あの仮面とローブは今は身に着けていない。
 
「フラッドさん」

「――何かしら?」

 フラッドに話し掛けたクィーリーは、何処か不機嫌そう。
 
「私のアイオロス様と、必要以上に親しくしないでいただけないでしょうか?」

「……は?」

 クィーリーはアイオロスに近付き、その腕にしがみついた。
 
「――あなたには、トールさんと云う方がいらっしゃるんですから。

 私には、アイオロス様しかいないんです」
 
「クィーリー、このままじゃ戦えないよ。放してくれないかな?」

「……私を見捨てないで下さいね、アイオロス様」

「分かっているよ。君って、一人じゃ生きて行けないたちみたいだし、放っておくのは、色々な意味で危険だからね。

 ずっと見守っているよ」
 
「ありがとうございます」

「プッ!」

 何がおかしいのか、フラッドは急に吹き出した。
 
「アハハハ!嫉妬しっとしたんだ、クィーリーちゃん。

 大丈夫よ。そんな人、奪ったりしないからさ。ただ、作戦を立てる為に話し合っていただけよ。
 
 それより、手を放してあげたら?そのままじゃ、ご主人様が戦えないわよ。
 
 エンジェルがどれほどのものか、未だイマイチ実感が湧かないけど、あなたが足を引っ張ったら、命を落としかねないわよ」
 
「そうそう。僕に死なれると困るだろう?だから、その手を放してくれないかい?」

 アイオロスが口にした、「死」と云う言葉に敏感に反応し、クィーリーは身を離した。
 
「ご、ゴメンナサイ!

 そうでした。敵はフラッドさんだけじゃなく、あのエンジェル達もでした。以後、注意します!」
 
「クィーリーちゃんにとって、私って敵なの?」

「アイオロス様を奪おうとするなら」

「……」

 冗談とは思えない彼女の態度に、フラッドは絶句した。
 
「まあ、いいわ。

 それより、私は呪文を唱えておかないといけないから、十分に近付いたら、教えてくれないかしら?
 
 ……多分、間に合うと思うけれど」
 
「その前に、迎撃に行きましょう、アイオロス様」

「待った!

 トールの射程ギリギリだから、これ以上、アイツから離れない位置で迎撃して貰えないかしら?」
 
「だ、そうだ。

 ここまで引き付けて、より街に近付けることになると云っても、そう大した問題じゃないだろう。
 
 何もせずに待つことに苛立たず、心を静めて気持ちだけでも準備を整えよう。
 
 冷静な行動こそが。対エンジェル戦においては重要だ。死にたくなかったら、焦らないことだね。
 
 クィーリー。一緒に生き残ろうよ」
 
「はい」

(何か、最初に会った時と、クィーリーのイメージが違って来ているような……)

 アイオロスは、何となくそう感じていた。
 
「彼等を、街に近付けなければいいのですよね?」

「ん、ああ。――何か、策でもあるのかい、クィーリー?」

「私たちの後方に、壁を作ります。あの速度でぶつかったら、多分、彼等の命は無いでしょう」

「そんなことが出来るのなら、是非、お願いしたい。

 ……空に浮いている僕らを見て、止まらずに進むとは思えないけど、念の為だ。
 
 時間はかかるのかい?」
 
「――多少。

 それと、その壁は目には見えないので、一人目は何とか出来ますが、それを知られて迂回されたら、簡単に避けられる程度の範囲にしか展開出来ませんが、無いよりはマシですよね?」
 
「ああ。無いよりは遥かにマシだよ」

「では」