第22話 推察
「……そうですね。そうかも知れません」
ただ、そうなるとアイオロスには一つ、疑問があった。
「けど、フラッドさん。あなたは『EMA』がどうのとか、『ENA』がこうのとか、言っていませんでしたか?」
「私には、『EMA』や『ENA』といったエンジェルの詳しい種別を見極める能力は無いわ。
私に限らず、他のほとんどの人も、そうだと思うけど。
今の召喚魔法がどんな原理によるものか知らないけど、あんなに簡単に服従させられるものなら、暴走したエンジェルは、私の知ってる『EMA』や『ENA』とは別物と云う可能性も考えられるの。
ただ、私は『EMA』が危険ではない程度に人間に服従する事を知っているし、トールと同時に100年の眠りに入ることになった頃に、『ENA』に関するプロジェクトが始動していたことを知っていただけ。
そこから、私たちの知識と私たちの眠りを解いてくれたデビルの話を統合して『ENA』が暴走したんじゃないかという結論に達したのよ。
コンピューターから仕入れた情報からも、それを否定する要素は見つからなかったわ。
――でも、エンジェルがあんなに簡単に召喚して、服従させられるものなら、暴走したのは1体のエンジェルだけで、そのエンジェルによって召喚されたエンジェルが、召喚主であるエンジェルの命令で、人間を滅ぼそうとしているのかも知れないわね。
実は、エンジェルの暴走に関する可能性としては、昔から危惧され、一部の研究員から対処を求められていたのよ。
それも、ウォーディンさんを筆頭として。
詳しくは聞いていなかったから、今になって後悔しているのですけど。
あなたたちの知っているウォーディンさんは、それに関して何か言っていなかった?」
まず、クィーリーがそれを否定する。
「私の方は、何も。
アイオロス様は?」
「――そういえば、僕が師匠に弟子入りを志願した時、動機を聞かれて『エンジェルに復讐する為』って言ったら、渋々、『仕方無い』と云って認めてくれたんだけど……今になって思えば、師匠って、エンジェル退治に対しては色々と策を練っていたし、やや消極的と言える部分はあったけれど、自分がやらなければならないことの一つだ、みたいなことを、時々口にしていたなぁ……」
「ウォーディンさんが本気を出してエンジェル狩りをしていたら、悪いけど、アイオロスさん、あなた以上に有名になっている筈ですけどね。
……まぁ、飽くまでも、あなたの言うウォーディンさんが、私の知っているウォーディンさんならという、仮定の話ですけどね」
「そうですよねぇー。何しろ、師匠の実力は僕ですら推し量る事が出来ない程、並外れていましたからねー。
……何の為に、姿を消したんだろう?」
「まあ、それを考えていてもキリが無い話ですし、次は私の実力でも見て貰いましょうか。
クィーリーさん、お願い」
「分かりました」