妖刀?名刀?

第21話 妖刀?名刀?

 四人が向かったのは、街の外れ、少し開けた場所。そこならば、エンジェルを召喚しても迷惑はかからないだろうと思われた。
 
「では、召喚してもよろしいでしょうか?」

 翼は折り畳んでその上からローブを着たクィーリーは、アイオロスに向かってそう訊ねる。
 
「その前に。

 順番を決めましょうか。
 
 誰から順に戦います?」
 
「私は、アイオロスさんの実力を知っておきたいわ」

「俺もだ」

 半ば、アイオロスも予想していた答えだ。肩をすくめ、「でしょうね」と呟いてからクィーリーの方を向いた。
 
「――なら、僕が最初と云う事で。

 クィーリー、召喚してくれるかい?」
 
「分かりました。少々、お待ち下さい。複雑な呪文を唱えなければなりませんので」

 そう言ってからクィーリーが唱え始めた呪文は、彼女が言った通りに複雑で、聞いていても何を言っているのか聞き取れない程だった。
 
 アイオロスがその方面に疎いから、では無い。トールは勿論、フラッドにも分からなかった。
 
 その呪文が、さほど長くなかったにも関わらず。
 
「『SUMMON』・『ANGEL』!」

 呪文が唱え終えると、クィーリーの前に等身大の光が現れた。それがゆっくりと光量を減らして行き、最後には一人のエンジェルがそこに立っていた。
 
「ご命令を、ご主人様」

 跪いたエンジェルは、クィーリーに向かってそう言う。
 
「この方と、命を奪わない程度に本気を出して戦いなさい」

「分かりました」

 エンジェルが立ち上がる。
 
 クィーリーは二人の間から退け、アイオロスを見守った。
 
 勝負は一瞬だった。
 
 飛び立とうとしたエンジェルに向かい、アイオロスが風の如く走り寄った。
 
 そこから、『水月』を抜き様、逆袈裟懸けに一撃で斬り下したのだ。
 
 エンジェルは真っ二つになって地面に転がった。
 
 その結果に、誰よりもアイオロスが驚いていた。
 
「凄い……。凄まじき切れ味だ。

 ……けど、僕の求めているのとは違う。
 
 惹きこまれそうなほどの魅力がこの刀にはあるけれど、これは、妖刀だ。何もかもを、無差別に切り裂く。
 
 僕が求めているのは、名刀。切ろうと思ったものを切り、そう思わなかったものには一切の傷をつけない」
 
「では、切らない方を試してみては如何でしょう?

 ウォーディンさんは、それを『世界一の名刀』と仰ってましたから」
 
「――そうだね。

 えいっ!」
 
 水月を地面に転がったエンジェルの死体に叩き付けると、今度は全く切れない。そんな不思議な事が、今、起きた。
 
「――なんてことだ……。これが、本物の名刀と云う奴なのか……」

 アイオロスは水月をしみじみと眺める。その刀身が跳ね返し、または屈折させる光に、惚れ込みそうなアイオロスだった。
 
「――いかんいかん。刀に、惹きこまれそうだった。

 ……でも、惚れてしまうな。こんな見事な刀には。
 
 最初は怖かったけれど、見る目を変えてしまいそうだ。
 
 世界一の名刀と、言われるだけの事はある。こんな見事な刀、初めて見たよ」
 
「……私よりも、魅力的なんですか?その刀は」

 何故か悲し気に、クィーリーは言った。その気も知らず、アイオロスはほとんど反射的にこう答えていた。
 
「うん。

 ……ああっ!ううんっ!勿論、君の方が魅力的だよ」
 
「嘘クサイ」

 軽蔑の眼差しと共に、フラッドはそう言った。
 
「こういう時は、大抵、咄嗟に出た最初の答えが本心なのよねー。

 それを、まるでこの子を口説くためにでも言い換えたみたいな言い方をして。
 
 見損なったわ。
 
 何が『風の英雄』よ。こんな奴に、そんな称号は相応しくないわ」
 
「そう言われても……。

 僕が名乗った称号ではありませんし、それに、可愛い女の子に悪く思われるよりは、良く思われたいっていうのは、男として健全な心理でしょう?」
 
「なら、最初ッからそれを貫きなさいよね」

「でも僕は、女ったらしになるつもりはありませんから」

「ところでよぉ」

 唐突に、トールが言い出した。
 
「エンジェルって、あんな簡単に服従させる事が出来るもンなのか?

 だったら、一連のエンジェル騒動も、召喚されたエンジェルが召喚主の命令で暴れているだけ、って可能性は……」
 
 トールにしては珍しいことだろう、頭を使って発言をした。
 
「私も、それは思ったわ」

 フラッドが振り向いた先に居たクィーリーは、問われる前にこう答えた。
 
「……そうですね。そうかも知れません」