第18話 フラッドの提案
「魔法を、理論から、教えていたのですか?その、あなたの、師匠は」
はっきりと、一言一言、区切るように強調してフラッドが言った。口調がやや強いように思えるのは気のせいではあるまい。
「……はい。
何か、おかしいのですか?
僕も、すぐに魔法の使い方を教えてくれるものだと、ちょっとは疑問も持っていたんですけど」
「そうではなくて。
魔法科学研究所の目的は知っているの?
その、魔法の理論を探ることが最大の目的であって、研究の成果に生み出されたとされている物の殆どは、その過程での副産物にしか過ぎないの。つまり――。
……私の言いたい事が分かりますか?」
アイオロスは、過去に目の当たりにして来た師匠の凄さを詳しく説明されても、今さら驚きはしないので、首を横に振ってその問いに返す。
「つまり、研究所を超越した人の弟子が、研究所に生み出されたエンジェルに勝てても、別に驚くような話では無いのよ。
まさか、そんな人が、世の中にいるのならの話ですけどね。
――あなたの師匠、一体、何者なんです?」
「変わり者でしたよ。
見た目は僕より少し年上ぐらいに見えましたけど、実際はもっと上ですね。
顔が綺麗だったお陰で、街の女の子の人気者でしたよ。
口数が少なかったから、僕も詳しい事はあんまり……。
――それより、エンジェルが研究所に生み出されたって、本当ですか?」
アイオロスの問い掛けに、フラッドが呆れたような顔で返す。
「あなたが、何故それを知らないの?
まさか、クィーリーさんまで――」
クィーリーが首を横に振り、小声で「知ってます」と答えた。
アイオロスの方も、「僕も、師匠やクィーリーから聞いているのですが、貴方が魔法科学研究所の関係者なら、より詳しく知っていると思いまして」と付け足す。
その答えに、フラッドは納得したようだった。
フラッドは一息ついた後、今度は部屋中を歩き回り、アイオロスの正面で立ち止まった。
「恐らく、あなたの師匠には、このエンジェル騒ぎを終わらせるだけの能力が備わっています。
正確には、あなたの師匠以外に、その可能性を秘めている人がいない。――私の予測では、の話ですけどね。
あなたの目的も、このエンジェル騒ぎを終わらせる事ではありませんか?
違ったとしても、街の人の復讐の為とか、目的は違ってもエンジェルを狩ると云う手段を用いるって点では、大差無いでしょう?
……まぁ、彼女と一緒に旅をしているのですから、エンジェル全てに対する復讐と云う事は無いでしょうけど」
「ええ。
でも、弟子入りした時は、復讐だけが目的でしたよ。
だけど、それだけに囚われていたら、エンジェルには勝てないと言われて。
それに、エンジェルを殺す事に、罪悪感が全く無い訳でもありませんから」
「成る程。――やはり、貴方に会っておいて正解でした。
もしも貴方が、復讐に燃える英雄気取りの殺人鬼紛いだったらどうしようかと思っていたのですが、あなたとならやっていけそうです。
そこで。
提案があります。
私たちと共に旅をして貰えませんか。この、エンジェル騒ぎを終わらせる為に。
出来得ることなら、あなたの師匠も共に」
半ば予想はしていたが、突然の申し出に戸惑い、アイオロスが助けを求めるようにその顔をクィーリーに向けた。
「私は、アイオロス様の意思に従います」