第29話 友の死
「……何だ、この音は?」
「危ない!」
シヴァンが血相を変えて、叫んだ。同時にリットに向かってダッシュする。
凄まじい勢いで、様子のおかしい銃を見ていたリットに対して、そのまま体当たりをかまして突き飛ばす。
ガシャーン!
勢い良く宙を飛んで行くリットの身体が窓を突き破り、そのまま向かいの八百屋まで向かって行く。
そのまま壁にぶち当たるかと思った瞬間、眩い光が迸る。
光は直後に激しい爆音と爆風へと入れ替わり、窓枠に残されていたガラスの欠片を残らず吹き飛ばした。
鼓膜と網膜とを散々痛めつけたその爆発の後に残っていたのは、崩壊した八百屋の瓦礫の山だけだった。
「う……一体、何が起こったんだ?」
死んだものと覚悟して、うつ伏せで目を瞑っていたレズィンには、何一つ見えはしなかった。
身を起こして辺りを見回し、部屋の中の惨状に驚く。
「何だ、こりゃ?
おい、フィネット!大丈夫か?」
ガラスの破片で血だらけになったフィネットに近寄り、抱き起す。
可哀想に、顔の半分が血で真っ赤になる程の傷を負っていた。
「……ひでぇ。
シヴァン!おまえは……大丈夫か。良かった。
――リット。リットは何処に行ったんだ?」
伏せていた為か、はたまた体の丈夫さの為か、シヴァンには傷一つ見当たらなかった。
次いでリットを探し、窓が割れている事に気付いて外を見て、レズィンは初めて外の惨状に気が付いた。
「半永久機関が暴走した。恐らく寿命だったんだろう。
或いは、姉さんが俺の目を通じて、何とかしてくれたか。
不完全な代物だから無限のエネルギーは得られなかったが、瞬間的に莫大なエネルギーが発生した。
俺の予想より被害が小さいくらいだ。
その女は、無事だったのか?」
「ああ、命に別状は無さそうだが……。
リットはまさか――」
「死んでいるだろう。
体の一部でも残っていれば奇跡だ」
シヴァンは冷静に事実を見極め、自分の予想を淡々と述べる。
その声が、レズィンの心に深々と刻まれるように感じられ、ただひたすら辛かった。
「馬鹿野郎!死ぬのは俺の筈じゃ無かったのかよ!」
涙を堪えて、レズィンは叫んだ。
お互いに、死ぬのは戦場だと覚悟していた。
だから、その時が来ても泣くことはないだろうと思っていた筈なのに。
「その女、早く治療しないと、出血が酷いぞ」
うるさいと、怒鳴りつけてやりたかった。フィネットを抱く手に力が籠る。
「退け。お前がやらないなら、俺がやる。
お前は、包帯を探して来てくれ」
シヴァンに突き飛ばされ、レズィンは包帯を探して家中を歩き回った。
「畜生!どいつもこいつも、俺より先に死にやがって!」
2年振りにして最後の友の死に、レズィンはとうとう堪え切れず、男泣きに泣き、涙した。