第21話 賢者の石
「ステイブ君。
錬金術というものを知っているかね?」
中将の対応の遅さに苛立った皇帝は、軍の者を何名か率いて、今、姉妹が閉じ込められていた部屋に居た。
「確か、金を生み出す想像上の技術を指すものだと思いましたが……」
「想像上?
この有り様を見て、何故そのようなことが云える?
実在するのだよ、錬金術は!
……君には、もう少しやって貰わなければならないことがあったのだが、予定を大幅に変更せざるを得ないようだな。
中将は全権を剥奪し、牢に投じておけ!
検問を敷け!身分の明らかで無い者、怪しい者は一人として街から出すな!
レズィン・ガナットとその一行に対して、捜索命令を出せ!
一刻も早く、見つけ出せ!」
その命令は、瞬く間に街中の帝国軍に知れ渡り、ルノックは異例の厳戒態勢が敷かれることになった。
「必ずある筈だ。
錬金術の要。
賢者の石は……」
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「ここに、あります」
ラフィアが指差したのは、自身の頭だった。
「それで?」
賢者の石と云うものが、何故ラフィアの頭の中にあるのかという理由は、敢えて聞かない。
物を金に変質させる力を持つ、賢者の石が原因であることは分かったが、それだけでは部屋中が金だらけになった理由の説明としては不十分だ。
「それで……食べ過ぎた分が全部消化されたのは良いんですけど、そのエネルギーの行き場が無くて……多分、ああなったんだと思います……」
ラフィアに続いて、シヴァンも云う。
「一日にあれほど食べたのは、初めてだからな。
こうなるとは、思いもしなかった。
俺も少し、胃がもたれていた」
錬金術に関する知識の乏しいレズィンは、賢者の石の存在すら、知らなかった。
その為、それだけの理由でとりあえずは納得する事にした。
それ以上の説明をされても、理解出来るとは思えない。
「エセルって奴の居場所だが、俺も少しだけ心当たりがある。
研究所って言ってたな。
それらしきものがこの街にあるという事を、この家に住んでいるリットって奴から聞いた事がある。
それが同一のものかはどうかまでは分からない。
けど、ちょっとは希望が湧いて来ただろ?」
問題は、リットが帰るアテが無いという事だった。
まさか軍まで動き出しているとは夢にも思わないレズィンは、夜になったら行きつけの酒場まで繰り出すつもりでいた。
「ただ、助け出すのは無理だと思ってくれ。
軍事にも手を出している国の機関だから、警戒は相当なものだ。
内部に協力者でも居ない限り、不可能に近い」
「内部に……協力者……」
残念ながら、レズィンにはそんな知り合いはいなかった。
リットを頼っても、出て来そうに無い。
当然ながら姉妹にもいないだろうと、レズィンはそう思っていた。