第13話 巨大なロブスター
「よう、リット。
ふた月振りぐらいか?」
「レズィン!
お前の事だったのか!」
二階に上がってすぐに、リットの姿は見付ける事が出来た。
三人が案内された席の隣のテーブルに座っていたのだ。
二階にはおよそ二十人の男たちが集まり、それぞれ食事をするなり会話するなりしていたのだが、上がって行ったレズィン達に、一度一斉に視線が集まり、数人を除いてまた元のように食事や会話へと戻って行った。
「まあ、座り給え。
知っていると思うが、彼は君が金塊を売りつけた店の店主、フレックリン・ルティーズだ。
さて――」
「わあ、小さなえびさん」
中将の会話の途中だったのだが、早速料理に手を付け始めていたラフィアが、特大のロブスターにフォークを突き刺して述べた感想が、一同の注目を集めた。
少なくともレズィンが見た中では最大のロブスターたちが、彼等の皿には盛り付けられていた。
シヴァンはと見れば、彼女は自分の目の前に置いてある皿を、難しい表情でただじっと睨んでいる。かと思えば。
「――コイツのデカいのに襲われた事がある」
と云い、テーブルの中央へ皿を押し退けた。
「こんな大きなロブスター、初めて見たけどな」
レズィンは自分の皿のロブスターの頭を持ち上げ、色んな角度から見て確かめる。
「私も、これほどのサイズのものを見る機会は、それほど多くないのだが……」
中将も眉間に皺を寄せ、そう云う。
「そんなことよりも、話があるんじゃなかったのか?」
姉妹が常識外れであることに、既に慣れつつあるレズィンが、逸れていた話を元に戻そうとする。
中将の方でも脇に居たセシュール大佐が注意を引き戻そうと呼び掛けていたが、中将は随分と気にかけていたようで、しばらくしてから今度は姉妹に向かって問い掛けた。
「お嬢さん方は竜を見たことは無いかね?」
「知りませんわ」
食べながらでも竜という単語に反応し、間髪入れずに返事を返すラフィア。
念の為に中将はシヴァンにも確かめるが、彼女も惚けて知らない振りをする。
「そうか。
レズィン君の連れなので、もしかしたらと思ったのだが――いや、すまなかった。
さて、本題に入るとしようか。
率直に聞こう。あの金塊は、一体何処でどうやって手に入れた?」
「それは教えられませんわ」
即座に返答したのは、勿論レズィンでは無い。
答えたラフィアの方を、中将たちは不思議そうに見る。
付け加えるようにレズィンも口を開いた。
「手に入れたのは俺じゃない。
その二人がこの街を見て回りたいからと、滞在費として換金を頼まれただけだ。
ついでに云うと、俺が訊いても、入手経路は教えちゃくれなかった」
「十分な見返りは約束する!
金脈の位置と、測定限界ギリギリまで9が並ぶ程のパーセンテージを誇る精製技術。
それをどうやって手に入れたのか、何としてでも教えて欲しい!」
力を込めて言う中将だが、ラフィアは食べる手を休めようともしない。
ただ――
「失礼ね。純度100%よ、あの金塊は」
不満げにそう云う。
再び中将たちは不思議そうな顔をして、訊ねて来る。
「――何故、断言出来るのかね?」
即座に答えるかと思ったラフィアが、食べる手を休めて暫し考える。
だが、返事はレズィンの予想と変わらなかった。
「それも言えませんわ」
流石に中将たちは、渋い顔になり始めた。
無理も無いと、レズィンもほんの少し、同情する。
だがすぐに、しばらくは難攻不落の要塞相手の攻防戦を見ながらの食事を楽しもうと、フォークとナイフに手を伸ばした。
しばらくは唸ったまま考えあぐねていた中将だが、大佐からの耳打ちがあって、ようやく口を開いた。
「君たち、この国に不満は無いかね?」