第39話 ドラキュラ
『会わせてやろうか、龍青とやら。二度と出会えぬと思う程の実力者に』
その声は一体、どこから聞こえてきたのだろう。そう、四人が思った時だった。
パリィンッ!
結界が砕け散る音がした。
砕け散った結界の欠片はすぐに無に還るため、ガラスが割れた時のように、砕けた欠片が地面に落ちる音も、欠片同士がぶつかる音もしなかった。
「ダ、誰ダ?」
「組長、後ろ!」
今度は芳一が龍青に声を掛けた。先程、虎白が狼牙に声を掛けたように。
状況は、酷似していた。だが、龍青の背後を取った者の行動は――
「……!」
狼牙の目に飛び込んできたのは、流星の胸に生える青い手。その色は、龍青の血の色。
そして、龍青の背後にいたのは、タキシードにシルクハット、黒マントを身に着けた、ロマンスグレーの髪が良く似合う老紳士。
「ナ、何者ダ……?」
「おや。ここに心臓はないのかね。……まあいい。
狼牙、こんな相手に手こずってどうする。危うく、恋人の命を失うところではないか」
「……何者だ?」
「私かね?
そうだね。自己紹介しよう。
私は、ラルクバルト・ジーク・――ドラキュラ。
初代ヴァンパイアだよ」
「……!」
狼牙は、あまりの驚きに声を失った。
「つまり、あのヴァンパイア・ウィルスの生みの親だ。驚いたかね?」
「……何をしに来た」
「君への手助けなんだが――気に入らなかったかね?」
「ああ、迷惑だ。今からでもいい、消えてくれ」
「恋人の命と引き換えでも、帰って欲しいかね?」
「ぐっ……!」
「残念ながら、そうはいかない。せっかく見つけた、サンプルだからね」
「……サンプル?」
「ああ。
何百年と生きてきた私ですら、噂でしか聞いた事のなかった、『ワードラゴン』の、サンプルだよ」
「キ、貴様、私ガ目的ナノカ?」
苦しそうに龍青が言う。
「……おや。まだ生きていたか。やはり、ここに心臓は無いのか。
では、脳を破壊しておこう」
ドラキュラは、左手で龍青の頭を握った。その直後、大して力を入れている様子も無いのに、龍青の頭は粉々に砕け散った。
「これで、ゲームオーバーだ」
右腕を龍青の体から引き抜くと、龍青の体は地面に崩れ落ちた。
「余計なことを……!」
「そういうことは、一人前になってから言いたまえ。恋人の命も守れないのでは、あまりにも情けない。
さあ、君の恋人の命を救ってやりたまえ。……それとも、私にその血を吸わせてもらえるのか?」
「……!詩織!」
狼牙は、先程の戦いとは別の緊張感を感じていた。