第34話 エネルギー
「死ネェェェェ!」
龍青の手から、大きめのエネルギー弾が放たれた。狼牙は、右手を差し出して構える。
「……?」
そのエネルギー弾は、狼牙を目指して一直線に突き進んでいったのはいいものの、やがて減速しながら、狼牙の掌のすぐ前で、ついには止まってしまった。
その様子を見取った狼牙の、「……?」である。
「ククククッ。ちからガ拮抗シテイル証拠カ!
ソウヤッテ、イツマデ耐エテイラレル?耐エ切レナクナッタラ、ソノえねるぎー弾ハ貴様ヲ襲イ、少ナクトモソノ右腕ハ消シ飛バス!」
「……爆発は、しないのか?」
ひょいっと手を動かすと、龍青の放ったそのエネルギー弾は、狼牙の手の動きに従って狼牙の頭の隣に構えられた。
「……!
馬鹿ナ!我ガえねるぎーガ、貴様ノちからニこんとろーるサレテイル!
アリ得ン!」
「僕の右腕を消し飛ばす?まさか。このエネルギー弾に、そんな威力は無いよ。
……前言を撤回しよう。不利なのは僕ではなく、君だった。
爆発から詩織を守る為、バリアまで用意していたのに、期待外れもいいとこだ。
……ま、その方が僕にとってはありがたいがね。
それに、エネルギー弾の速度も足りない。
僕は、エネルギー弾などというものを生み出す能力は無いが、それをコントロールする能力は鍛えられた。
それを利用すると、君のエネルギー弾はこれだけのスピードになる」
狼牙がひょいっと右手を動かすと、瞬時に龍青の左腕に当たって四散した。龍青に、ダメージは無さそうだ。
「威力も、大したことは無いな」
「フンッ!貴様、我ガえねるぎー弾ヲ甘ク見タナ?
コウシタラ、ドウスル?」
龍青の頭上に、三つのエネルギー弾。それを見て狼牙が。
「別に、どうとも?」
「ナラ、ドウスルノカ、見セテモラオウ!
GO!」
今度は、三つ飛んでくるエネルギー弾。狼牙は両手を突き出した。軌道を読み、二つに的を絞る。一つは、放っておいた。
――父との修行を思い起こされる――などと、狼牙はのん気なことを考えていた。
狼牙の父は、龍青以上のエネルギー弾の操り手だった。どう上手く防御しても、爆風で吹き飛ばされてしまう。
それが、龍青のエネルギー弾を見た時に危惧したことであった。
それに対処する術を手に入れる前に、狼牙は父を殺してしまったのだ。
修行中、攻撃能力の修行の最中に。
決して血を求める為にそうしたのではなく、狼牙の能力の一つである、目には見えないナイフの切れ味が、狼牙とその父、二人の予想を遥かに上回るほど鋭かったのだ。
結果、そのナイフは父の心臓を貫き、噴き出した血を浴びて――狼牙には、そこからしばらくの記憶が無い。気が付くと、父の血を啜っていたのだ。
だから、今回もそのナイフを切り札にしている。そのためには、遠距離戦が通用しないことを、思いッきり思い知らせなければならない。
エネルギー弾は両手に一つずつ受け止められ、もう一発は狼牙の顔面に命中した。――かに見えた。
だが、実際は狼牙の顔の目の前で消え去っている。
しかし、龍青にはそれが分からなかった。ただ、エネルギー弾が狼牙の顔面に命中したかに見えたことを、喜んでいた。
「ハハハハハハハッ。ヨリニモヨッテ、頭ニ当タルえねるぎー弾ヲソノ身ニ受ケタカ。
……ドレ。マダ生キテイルカナ?」
「……別に、どうということはない。僕のバリアも、君の結界と同程度の強度を持っている。
当たったのが顔面だったからと言って、ダメージを受ける事は無いよ」
髪の毛一本を焦がすことすらなかったその結果に、龍青は愕然とした。
「馬鹿ナ!効イテイナイトイウノカ!」
「僕にダメージを与えたかったら、例えばこのような手段を使えば良い」
両手で受け止めた二つのエネルギー弾を、狼牙は融合させた。
「……威力ヲ、高メタノカ?」
「未だ威力不足だがね」
操作速度の違う狼牙のエネルギー弾は、瞬時に龍青に命中した。
命中したエネルギー弾は、龍青を巻き込んで爆発し、龍青は吹き飛ばされて結界に叩きつけられた。
「グハッ!」
結界に叩きつけられる衝撃も、龍青の鱗を以てしても防ぎきれなかった。かなりのダメージだ。
もうちょっと強かったら、内臓が破裂していたかも知れない。
狼牙が爆発を恐れていた理由が、これだ。
爆発によって、詩織は地面に伏せているから地面に叩きつけられるダメージは無いだろうが、それでも詩織の身は心配だった。
その上、狼牙が吹き飛ばされてしまうと、詩織から引き離されることも危惧していたのだ。
それが無いと分かれば、狼牙は遠距離からの龍青の攻撃は怖くない。
「遠距離戦は通用しないと、分かっていただけたかね?
さあ、近付いて来たまえ」
言った狼牙も、少し龍青に近づく。詩織を自分で踏んだり、龍青に踏まれるのを恐れての事だ。
「……罠、ダナ?」