石頭

第32話 石頭

 パァンッ!
 
 虎白の撃った弾丸は、間違いなく芳一の頭に命中した。だが、それは跳ね返って、結界にぶつかって地面に落ちた。
 
「クッ……!」

「……あ。

 あははは。
 
 やった、成功したぞ!
 
 組長の言った通りだ!拳銃の弾丸ぐらい、跳ね返せる!」
 
 狂喜乱舞する芳一。今度は彼の胸を狙い、発砲した虎白。だが、それも跳ね返る。
 
「形勢逆転だな、え、虎白?」

「……態度まで変わったな、テメェは」

「俺には拳銃が効かなくなったんだ。態度ぐらい変えるさ。

 組長が、おまえを殺せば次期組長の座を約束してくれたんだ。確実に、殺すぜ?」
 
 芳一は銃口を虎白の頭に突き付け、楽しそうに笑っていた。
 
「……決めゼリフなんか、言わねェのか?」

「なら、言い返してやるよ。

 地獄で会おうぜ、虎白」
 
 パァンッ!
 
 銃声が響く。芳一は、崩れ落ちる虎白を想像し、満足気な笑みを浮かべていた。
 
 だが、その拳銃が虎白の手によって掴まれた。銃口を虎白の頭に向けたまま。
 
「頭なら、跳ね返せるんだよ。もう一度なんてケチ臭いことは言わずに、全弾、撃ち尽くせよ。

 でなけりゃ、テメェの腕、握り潰してやるゼ」
 
 弾丸は、虎白の頭に命中したが、跳ね返されたのだ。
 
 虎白は自分の拳銃を遠くに放り投げ、それを持っていた右手で、拳銃を握っている方の、芳一の手首を握った。
 
「痛ェ!痛ェよ、虎白!

 放せ!放さねぇと、撃ってやるぞ!」
 
「それが俺の望みだ、誰が放すかよ!」

 銃声が、何度も繰り返して響いた。だが、それによって放たれた弾丸の全てが、虎白の頭によって跳ね返された。
 
 やがて、弾丸が切れたのか、何度、芳一が引き金を引いても、銃声は鳴らなくなった。
 
「跳ね返せるが、いてェんだぜ、結構。

 だが、今はおまえの方が痛いだろうな、芳一」
 
「うわあああああああ!」

 空いている方の手で、芳一は虎白の頭、それも最も硬そうな額に対してパンチを繰り出した。
 
 もちろん、弾丸を跳ね返すような硬さの虎白の石頭、大したダメージを与えるどころか、殴った芳一の手の方が痛くて、悲鳴を上げると言うよりも、吠えていた。
 
「俺が心配していたのは、拳銃で心臓をぶち抜かれることだけ。これでお前はもう、怖くない!

 お前の頭も弾丸を跳ね返したが、これは是非とも、比べてみたいものだな。どちらの頭が、より硬いのかを。
 
 喰らえェェェェ!」
 
 ゴンッッッッ、という鈍い音がした。
 
「いっ……ぅー!

 テメェも、相当な石頭だな。弾丸を跳ね返すだけあって、結構痛かったぜ。
 
 だが、受けたダメージはテメェの方が上だろう?」
 
 虎白の言う通り、芳一の方は、今の頭突きのダメージのせいだろう、足元がフラついていた。
 
 ――が。虎白は、ここから本気を出してくるということを、未だ知らずにいた。