第28話 ワードラゴン
「流石、作家をやっているだけあって、想像力は豊富だな。
そう!私は極秘のウィルス、ワードラゴンの一族の者だ!
君たちのように月の満ち欠けに影響されることなく、いつでも自分の意思で変貌を遂げ、100%の能力を発揮することが出来る!」
龍青の顔に、鱗状のようなものが現れたかと思うと、ゆっくり変貌を遂げて行った。
そうはさせまいと、虎白が拳銃を取り出して、撃つ!
だが、弾丸は龍青の鱗に弾かれた。弾かれた弾丸は、軌道を変え遠くから見ていた野次馬の腕に当たって止まった。口径の小さな銃だ、大した傷ではあるまい。
しかし、その流血を見て、野次馬が騒ぎ始めた。悲鳴を上げる者もいる。そのうち、警察が駆け付けるだろう。
「……なあ、狼牙サン。アイツ、アンタに任せて良いか?」
「何とかしよう。錬金術の秘法による最高傑作である『ヴァンパイア』一族の名に恥じぬよう、何とか圧倒する!」
「芳一を撃退したら、助力に行く」
「要らぬ!」
その返事を聞いて、虎白は悟った。狼牙と龍青の戦いは、錬金術の最高傑作であるという、プライドを掛けた戦いなのだと。
「それと一つ、言っておこう、虎白よ。
決して、油断するな。恐らく向こうの男も、ただのヴァンパイア・ウィルス感染者ではなく、ワーウルフだ。僕の勘がそう告げている。
ただ、心臓と脳さえ守れば、滅多に死ぬことは無い。逆に言えば、あの男の心臓か脳かを大きく傷つければ、殺せる。
僕のような特殊能力が無い以上、拳銃に頼れ。無駄弾を撃つな。
……もう一つ、個人的に。奴を詩織に近づけさせないでくれ」
「オーライ!行くゼ!」
虎白は芳一目指して駆けた。元がワータイガーなだけに、瞬発力は凄い。あっという間に間合いが詰められた。
虎白と芳一は、言わば猫と犬の勝負。……何となく、猫の側である虎白が負けそうだが、狼牙は対等と考えていた。
問題は、狼牙対龍青である。まずは、拳銃の有無による差を埋めなければいけない。
遠距離なら、叩き落すなり受け止めるなり出来る。まあ、至近距離でも目玉にでも当たらなければ大したダメージを受けるものではないが、またスーツを傷つけられるのは、好ましくない。
まずは弾丸が無くなるまで、龍青が拳銃を撃って来るのを待った。
間合いを詰めた虎白。途中で一発、発砲されたが、予測出来ていたので避けることが出来た。
狙うは、三箇所。頭、心臓、そして拳銃を持つ手。
まずは、拳銃を落とさせるべく、手に持った拳銃を、拳銃を持った芳一の手に叩きつけた。
下を向いた芳一の拳銃が、パァンと暴発した。運悪く、放たれた弾丸は虎白の左腿を貫いた。
「痛っっっってェじゃねェか、この野郎!」
痛いが、腹の傷に比べれば大した事は無い。今度は顎に当てるよう、拳銃を振り回すが、避けられる。
「ごめんなさい、ごめんなさい」
芳一は怯えた様子でそう言いながら、今度は胸の中央へ向けて発砲。虎白は避けようとしたが、躱しきれず、右胸が貫かれた。
恐らく、肺に穴が開いただろう。
「こンンンンのォ!」
虎白も負けじと、芳一の胸の中央を狙って発砲した。だが、彼も虎白と同じ。避けようとして躱しきれず、右胸に穴が開いた。
「痛い……痛いよぉ……」
言いながら、虎白の頭を狙って撃つ。これは避けきれたが、その後方で狼牙の頭に当たったのは余談。ちなみに、傷の一つも負わせることは無かった。
「こんな情けないワーウルフに、負けてたまるかよォッ!」
虎白の返し技は、金的を狙った蹴り。これは、まともに命中した。うずくまる芳一。これで、交互に攻撃するという図式は崩れた。
「地獄で会おうぜ、芳一」
虎白は、芳一の頭に拳銃を突き付けた。