第27話 第4のウィルス
「初耳だぜ、組長」
「当然だ。私の甥だからと言って、威を借る狐になって、職権を濫用されては敵わぬからな。
本人にも、隠すように言っておいた。誰かに言えば、破門だと付け加えて」
「……正解だ。
組長の権力が無くても、奴は、本物の虎の威を借る狐になっていたからな。
龍青組長。アンタ、俺の正体を知っていたよな?それでも、俺に喧嘩を売るのか?」
苦しそうだというのに、虚勢を張る虎白。
「満月の夜でもなければ、お前は怖い存在ではない。ましてや、銃を持っている今ならな。
それに、先に喧嘩を売ろうとしたのは、お前の方だろう?」
「それに、武玄から聞いていないか?俺が、一雄を使ってどうしたのかを。
知っているなら、武玄を連れて来なかったのは失敗だぜ?」
「ヴァンパイア・ウィルスのことか?それなら、見たまえ」
龍青は拳銃を向けたまま、片手でネクタイを緩め、第一・第二ボタンを外し、首筋を見せた。そこには、二つの穿たれたような傷。
狼牙も虎白も分かった。それが、どうやって出来た傷なのかを。
今は露わにされていないが、首の後ろの方にも、同じような二つの傷もあるであろうことを。
「武玄か、一雄に吸わせたのか?」
「その通り。これで、対等以上の戦いを展開できる」
「……芳一にも感染させたのか?」
「もちろん。
恐らく、私と結城君が対等。虎白、お前と芳一が対等ぐらいの能力を持っている。
これで、結城君が我々に味方してくれるのなら、勝ちは決まったようなものなのだが」
虎白は、チラッと狼牙に目を向ける。
「……言った筈だ。どちらにも味方しないと」
「悪いな、アンタには借りを作ってばかりだよ」
「少しは返して欲しいものだがね」
狼牙と虎白のコソコソ話に、龍青がイラつく。
「何をコソコソと話している?」
龍青は言うとまた一発銃弾を撃ち放った。が、狼牙がそれを受け止める。
「ほう……。これは驚いた。
結城君。君はもしかしたら、私以上の能力者かも知れない。
是非とも、我が方へ味方してもらいたいのだが、どうかね?」
「……また、同じセリフを繰り返させるつもりか?」
「その後は、組を解散させても何をしても構わないのだが、どうかね?」
その言葉に、狼牙が迷った。
「それは少し、魅力的かも知れないな」
「やめとけ。解散しても、組員を全員殺すなり何なりしないと、他の組に行くか、新たな組を結成するだけだぜ。
多くのヤクザにとっては、ヤクザ以外に生きる道が無いんだ。レールの敷かれた押し付けられた生き方を受け入れることは出来ないぜ」
「狼牙ぁ」
虎白が言った後、聞こえてきたのは足元から。……詩織の声だ。
「この人、ヤクザでも仲間なんでしょ?仲間を見捨てたり、裏切ったりするつもりなの?
それに、私、ヤクザのお嫁さんは絶対に嫌よ。死んでも嫌だからね」
「了解。
すまないな、龍青殿。詩織に説得された。僕は虎白殿に味方する」
「……残念だ。非常に残念だ。
君の作品は、読んでいるよ。
とても興味深い。そこから、君の能力を推察した。それでも、私は君と対等に戦える自信がある。
……何故だか分かるかね?」
「……銃を持っているからだろう」
「違う違う。全然違う。
……君と、虎白の能力の差は分かるな?なら何故、私が虎白と対等ではなく、君と対等だと言ったのだと思う?」
しばらく考え込む。だが、答えは出ない。
「……分からないな」
「虎白は、知っていると思うが『ワータイガー』。そして、君から間接的に感染し、ヴァンパイアとなった。
その二つの能力を持っているのに、私がそれ以上だと言ったのは、何故だと思う?」
「普通に考えたら、あなたの方が力は下だな。もっとも、拳銃を持っていることを加えると、対等程度かも知れないが」
「『錬金術』は、『ワータイガー』『ワーウルフ』、そして君の『ヴァンパイア』の、三つのウィルスを作り上げたと、君の作品に書いてあったな。
コレがヒントだ」
「……まさか、ワーウルフの血族の者?」
その可能性に思い当たり、警戒心を強めた狼牙。だが。
龍青がニヤリと笑う。
「そう言うと思って、わざとそのヒントを与えた。
ウチの組員のように、捻くれてなくて嬉しいよ。事が、私の思い通りに進む。
次のヒント。これで分かると言う位、分かりやすいヒントを差し上げよう。
私の名前は山武 龍青。山の武士に始まり、伝説の生き物、龍の字を書き、色の青で終わる。
さて。分かったか?」
ある可能性に思い至り、狼牙の顔は蒼褪めた。
「まさか……ワードラゴン?」