第26話 龍青
弾丸は、背中から虎白の腹を貫いた。
「なっ……!」
貫通した弾丸は、狼牙に受け止められた。
プシュッ!
噴き出す真紅。
「キャアアアアアア~~~~~~!」
響く悲鳴。
「何だぁっ!」
振り向く虎白。
「すまん。注意が遅れた」
ただ一人、冷静な狼牙。
「あ……ああああああ……」
拳銃を構え、震える男。
「芳一ぃっ!」
叫んだ虎白。
詩織に遅れて、周囲の人達も、悲鳴を上げたり、逃げ出したり、凍り付いたり、恐らく警察に電話をかけたり、様々な反応が起こった。
「す、すいません、虎白さん。これも、組長の命令で……」
「貴様ぁぁぁぁぁぁーーーーーー!!!!!!」
虎白が動いた瞬間――
ドォンッ!
先程よりも大きな、銃声。それは、虎白の心臓を狙ったのだろう。だが、肩を貫くにとどまった。
これも、背後から。つまり、虎白は挟撃されていた。
「伏せろ、詩織!」
狼牙が、詩織を上から押す。パニックを起こしかけた詩織は、ただそれに従った。
「……龍青組長――」
虎白の肩を撃ったのは、スーツを着てネクタイを締めた、威厳のある壮年の男性であった。ロマンスグレーの髪が、良く似合う。
「残念だな、虎白。私は、お前を気に入っていたのだが……。
謀反の準備ありとあっては、始末せざるを得まい」
「だからと言って、組長自らが出て来るとは思わなかったな。
……誰が、裏切った?」
「冥土の土産だ。教えてやろう。
武玄だ」
「あンンンンンンの野郎ぉぉぉぉぉぉ!
どこにいやがる!」
「それは教えられない。
……隣にいるのは、結城 狼牙君かな?」
「……僕に、何か?」
「君は、どちらにつく?」
「いや。どちらにもつかない。第三者として見守る。
出来れば、三人で別の場所でやりあって欲しいのだが……」
「私につけば、次期組長の座を譲っても構わない。なに、1年か2年、待てば私は引退する。
それまで待てば、莫大な金が君のものになる。
……虎白が、そこまで待つつもりがあれば、次期組長になれた筈なのにな。
惜しいことをしたよ、虎白。お前は。
なのに、おまえは私を殺そうと計画した。だから、反撃させてもらう」
「僕は、ヤクザになどなるつもりは全く無い。組を潰すというのなら、協力しても構わないと思う位、ヤクザが嫌いだからな。
……忠告しておこう。拳銃を持っているからと言って、君たちは有利ではない。
僕の目算では、五分と五分。だから、出来ればここでの戦いはやめて欲しい。
拳銃を使えば、無関係な人間が犠牲になる」
「フッフッフ。残念だ。
味方にならぬのならば、殺すしかあるまい。貴様の存在は、私たちにとって、脅威だからな」
「分かっているのなら、この場は退け」
「恋人と言う足手纏いがいるという、絶好のチャンスを見逃せ、と?」
「……貴様、詩織に手を出すつもりか?」
「君が虎白を殺してくれたら、引き下がっても構わない。簡単には死なないのだろう?私の甥の、一雄のように」