第17話 ヒント
「……それで、飲んでいる血液ってのは、どこの病院で仕入れている?」
「それは紹介出来ない。ただでさえ、輸血用の血液と言うのは、不足気味なのだからな。
ヤクザなんぞをやっていれば、伝のある病院の一つ位はあるだろう。そこで頼むことだな」
「分かった。ありがとよ。借りが一つ、出来ちまったな。
……なぁ。今度、一度で良いから、喧嘩してみねぇか?
俺は、強さを追究する為に、格闘家と比べてこの道を選んだんだが、今でも世界一の強さに憧れる。
アンタに勝てれば、それに一歩近付いた気分になれそうだ。
手加減をすることを約束する。だから、一回で良いから、俺と喧嘩してくれよ。なあ?」
「断る。僕が喧嘩したら、殺し合いになってしまう。
それに、本当の能力に目覚めていない君には、僕との戦いで手加減するような余裕など無い。となれば、それも殺し合いに繋がる。
だから、二度と僕に関わらないでくれ」
「……『本当の能力』?」
「ああ。恐らく三種のウィルスの中で、ヴァンパイアにのみ秘められている能力だ。
僕の作品を読んでみると良い。多少のヒントは隠されている。それ以上を教える気は、無い」
「アンタの作品?
アンタ、職業は何だ?」
「ホラー作家。『吸血鬼の手記』シリーズで有名なのだが、知らないか?」
「職業までは、まだ調べ上げられなかった。勿論、アンタの恋人に関してもな」
「鎌をかけた、では表現がおかしいか。
そうそう。
ハッタリだった、のか?」
「その通り。名前と住所、電話番号を調べ上げるだけでも、大変な作業だったんだゼ?
それでも、命がかかっているとあって、皆、死に物狂いで調べ上げたんだ。
頑張った甲斐があったよ。危なくエビチリを食べて死にそうになるところだった。
ありがとよ。アンタの恋人には手を出さないから、安心しろ。
じゃあな!」
プツッ、ツーッ、ツーッ、ツーッ。
唐突にかかってきた電話は、唐突に切られた。
「牙は抜くよう、忠告するつもりだったのだが……。まぁ、いい。困るのは連中だ」
あとはしばらく、ワイングラスを傾けながら日記に目を通し、詩織からの電話を待つ。不安に駆られたのは言うまでもあるまい。
詩織からの電話がかかってきて、彼女の無事な声を聞いた時には、安堵のため息を洩らした。