第16話 食生活
「……血を、吸わせたのか」
「ご名答。おかげで、食生活を大きく改めなければならなくなってな。皆、相当苦労してるゼ。
俺は特に、一番の好物だった、餃子を食べられなくなったのが痛いね。アンタの苦労が分かるよ」
「僕は生まれつきのヴァンパイアだから、さほど苦労はしなかったよ」
「……そうか。そうだよな」
「だが、症状が大きく表れるまでは、普通の人間と同じ食事をしていて――いや、むしろヴァンパイアの為の食事から遠ざけられていたから、好みが大きく変わる時に、多少の苦労はした。君たち程では無いと思うがね。それでも、君たちの苦労は分かる。
しかし、よくもそんなことをしたものだな。覚悟は出来ていたのか?」
「いや……。正直、こんなに辛いとは思わなかった。
だが、人間の、特に乙女の血があんなに旨いものだとは思わなかった」
狼牙は、驚きから大きく息を吸い、怒りからこう怒鳴り散らした。
「貴ッッ様ぁー!ただの人間に手を出したのか!」
「吸い過ぎて、死んじまったがな。
別に、驚くほどのことではあるまい?俺たちはヤクザだ。その位の事はするさ。平気でな。
それに、まだそんなに多くの人間には手を出していない。お前のカノジョが、無事だと良いがな。クックック……」
「……脅しが足りなかったということか」
「いやいや。そうではないさ。ただ、一雄の奴をヴァンパイアにしたのが間違いだったというだけの事さ。
……お前のカノジョの身の保証をして欲しいか?交換条件は本当に大したことじゃない。
――どうやったら、お前のような生き方が出来る?特に、食生活に関して、詳しい知識が欲しい」
「……何故だ?」
狼牙が訊ねると、暫しの間を置いて、返事が返って来た。
「……どういう意味で、『何故』なんだ?」
「平気で人を殺せるヴァンパイアは、人間の生き血を啜るだけで生きて行ける。ヤクザが何故、人間のような食生活を求める?」
「殺人の罪で刑務所に投獄されてみろ。
普通の囚人との共同生活を強いられれば、血を求める余り、他の受刑者の血を吸い、独房行きは確実だろう。
そこで普通の人間の食事を出されて、狂わず生きて行けるか?」
「そこまで考えていたか。
そうだな……僕の生活を参考にすると良い。
まずは――」
読者の方には、既に序章でご存じの筈なので、狼牙のセリフは省略する。
「ゲェーッ!エビチリも駄目なのかよ!俺、アレが好物だったのになぁー」
「必ずしもダメとは限らない。僕の場合は、一度食べて死にそうな位、苦しんだ覚えがある。ニンニクの入ったものはオススメ出来ないね」
「俺も、餃子を食って死にそうになったよ。忠告に従い、二度と食べないことにする」