第13話 拷問
虎白は入口の扉を開き、一雄を呼ぶ。間もなく、一雄が現れた。
「何スか?」
「この野郎が、この場で俺たちに拷問を見せてくれるんだとよ。ハッハッハ。その道のプロフェッショナルである俺たちにだゼ」
笑いながら言う声。だが、その内容は一雄にとって、耐え難いものだった。
「耐えられるよな、一雄。……っつうか、耐えろ。ヤクザなら、根性見せろよ」
「……ウスッ」
瞬間、嫌そうな顔をしたが、一雄は狼牙の前に進み出た。
「やれるもンなら、やってみろ」
「そうか。そう言ってくれると嬉しいよ」
そう言って、狼牙は左手で一雄の胸倉を掴み、右の手刀を一雄の左腕に放った。その手刀は、一雄の腕に軽く触れるだけだが、一雄の左腕は切り落とされた。
「嘘ぉっ!」
虎白が驚く。
吹き出す血、そして当然の如く上がる――
「な、何しやがる!」
一雄の抗議。それを全く気にせず、狼牙は次に左足を同じく手刀で切り落とした。それから、胸倉を掴む手を入れ替え、今度は左の手刀で右腕と右足を切り落とした。
「大丈夫だ、死にはしない」
「嘘つけ!この出血で助かる訳がねェだろうが!」
「何故なら――」
血を見て興奮した狼牙の犬歯が伸び、首筋に噛み付いた。犬歯は、一雄の肌を食い破って、血を噴き出させた。その血を、狼牙は飲んでいた。
やがて――
「何故なら、君は、僕らの仲間入りを果たすのだからね」
「分かったぁー!」
虎白が叫んだ。
「ほう……。流石にここまでやれば、分かる、か……。
そう。僕はヴァンパイア。君の格上の存在だよ。だから自信があったのだ。僕の拷問に、君たちが耐え切れない、と。
さて。一千万、支払って貰おうか」
「……仕方ねぇ」
そう言って、虎白は隠し金庫へと向かい、しばしの後、十束の札束を手に、狼牙の前に進み出て、それを差し出した。
狼牙は一雄を虎白の方に放り投げ、その札束の一つを受け取った。
「これで構わない」
残りの九束を持ったまま、虎白はこの期に及んで強がる。
「この手が、俺に通用するとは思うなよ」
「君には、先にエナジードレインを使う。
その後なら、僕の好きなように出来る。
耐え切る自信はあるかね?」
「ちぃっ!その手があったか!
だが、その百万、軽く考えないことだな。満月の夜なら、俺もアンタには負けない自信がある」
「フフッ。
ワータイガーの弱点を知っているかい?」
軽く笑って、狼牙は言った。
「……何だ、その、ワータイガーの弱点ってのは?」
「髭だよ、髭。虎人間の姿になった時の、あの長い髭。
切られたり、抜かれたりしたことはあるかい?」
「……ないな。
そんなものが、俺の一族の弱点だと言うのか?」
「まともに歩くことも出来なくなるんだよ。日記を読んでいれば、知っている筈の事だがね。
口伝ですら、伝えられていないのかい?」
「……聞いた覚えがねぇな。アンタと戦う時は気を付けるよ」
「おや。じゃあ、言わない方が良かったのかな?」
「だと思うゼ。親切に、ありがとうよ。
で?コイツの始末はどうしてくれる?もう死んだようだが……」
虎白は、床に転がった一雄を軽く蹴る。
「し……死んでないッス……」
囁くように小さな、一雄の声。これには虎白も驚いた。
「化け物みたいな生命力をしているな。
これが、伝染したヴァンパイア・ウィルスの力か?」
「何だ。ヴァンパイア・ウィルスの存在自体は知っていたのか」