エナジードレイン

第12話 エナジードレイン

 虎白が差し出した手を、狼牙が握る。
 
 虎白は、ただ握手するだけではなかった。それこそ握り潰すぐらいの気持ちで、本気で狼牙の手を握っていた。だが――
 
「つ、強ェ……!」

 そう言ったのは、虎白だった。
 
「何だ、この怪力?

 テメェ、ワーウルフでないのなら、一体、何者だ?」
 
「力だけなら、満月の夜の君には敵わないがね。

 そんなことより、自分の肉体の変化に気付かないかね?」
 
「……自分の肉体の……変化?」

 虎白は自分の全身に神経を集中させるが、何の変化も感じなかった。――否、僅かに、ほんの僅かに、感じる。
 
「君は体力が有り余っているから、まだ、さほどの変化は現れていないがね」

「……体力が……奪われて、いるのか?」

 徐々に、その変化は明らかに感じられてきた。
 
「正解だよ。僕はこの手段で、血を飲まなくても十分に生きていける。

 ……まだ、僕の正体が分からないのかな?先祖代々、日記は記していないのか?」
 
「……!

 何故、それを知っている!
 
 確かに、日記はあるが、悪いが頭には自信がねェ。日本語以外の言語は読めねェよ」
 
「六百万の代わりに、その日記でも構わないが?」

「冗談じゃねェ!あれだけは、一族以外の誰にも見せるなと言われている!

 大体、その日記が何故、六百万の代わりになる?一族の者でないアンタに、何の価値がある!
 
 ……!まさかアンタ、分家のワータイガーか?……いや、それにしては、名前に『狼』の名前が付いている意味がねェ。
 
 ……ちゃんと、納得のいく説明を貰えなければ、六百万は渡せねェ!」
 
「やれやれ、頭の悪いワータイガーだ。これだから、ヤクザは嫌いなのだよ。

 我はワーウルフ・ワータイガーの主。人の生き血を啜り、永遠に生きる存在……の、筈なのだがな。
 
 伝説にあるように、永遠に近い寿命を持つ存在でもなければ、一族同士の戦いになれば、簡単に死んでしまう。
 
 ……まだ、分からないか?」
 
「……見当もつかねェ。……っつうか、そろそろやめてくれ。死んじまう。

 体力を奪う特殊能力があることは分かった。俺がアンタに敵わないことも分かった。
 
 六百万は支払うから、頼む、やめてくれ」
 
「だらしのないワータイガーだ。一時間は耐えると思っていたがな。

 ……混血が進んで、力が弱くなったか?
 
 いいだろう。エナジードレインはやめてやろう。――即金で六百万、支払えるんだろうな?」
 
「もちろんだ。

 頼む、手を放してくれ!」
 
「……もう、エナジードレインはやめたのだが……。錯覚を起こしているのか?」

 そう言い、狼牙は手を離した。
 
「ふぅっ……ふぅっ……ふぅっ……。

 ヤバい。気を失いそうだ」
 
「その前に、六百万、支払って貰おうか」

「アンタの正体を教えて貰っていないぞ。

 ワーウルフでもワータイガーでも無いなら、一体、アンタは何者なんだ?」

「……口止め料無しで、他言無用という条件なら、教えてあげても良い」

「……七百万に引き上げる。それならどうだ?」

「……一千万。それなら、誰に話しても良い。その代わり、喋った時の覚悟は決めておいて貰おうか」

「アンタの正体を言わなければ、賭けは成立しないだろう。

 ……一千万でも構わない。だが、その内容を誰にどう話そうが、報復措置は無しという条件にして欲しい」
 
「馬鹿が。ヤクザの嫌がらせに、黙って耐えろと言うのか?

 どんな嫌がらせをするのか、君たちが一番良く知っている筈じゃないのか?それが、どれだけ応えるものなのかも。
 
 もし、そんなことをした場合には、死よりも辛い報復が待っていると、覚悟しろ」
 
「はははッ。ヤクザ相手に脅しかよ。そんなもの、通用すると思っているのか?

 こっちは、その道のプロフェッショナルだゼ。報復のツラさは、アンタのものより俺たちのものの方が上だゼ」
 
 スッと、狼牙は目を細めた。……虎白には、サングラスの奥で見えないが。
 
「なら、先程の男を呼べ。どうなるか、思い知らせてやろう」

「……この場で、か?フンッ!そんなもの、たかが知れてるゼ!

 ちょっと待ってろ」