第10話 オトシマエ
「……何だ、山鹿。返事も待たないで開けンじゃねェよ」
「す、スミマセン!
……あの、コイツが、虎白サンに会わせろと……」
「アァ?何だ、ソイツは。グラサン付けたままじゃねぇか。礼儀を弁えさせろよ。殺すぞ、テメェら」
「スンマセン。でも……」
虎白は、身を乗り出し、眉間に皺を寄せてこう言った。
「『でも』?言い訳する気か、テメェ……」
そこへ、スッと狼牙が前に出た。そして、スーツの穴を指差し、口を開く。
「コイツに拳銃で撃たれ、スーツとワイシャツに穴が開いた。弁償して貰おうか」
「ウルセェよ、テメェ。俺が一雄と話している最中じゃねェか。礼儀ってものを知らねェのか、テメェ」
「恐喝の真似事をして、僕が断ったら拳銃を撃ったコイツは、礼儀を知っているとは思えないが……」
「何ぃ?
一雄!テメェ、恐喝に失敗して拳銃を撃った上、そのオトシマエを俺につけさせようとしやがっているのか?
ふざけんな!テメェの不始末はテメェでオトシマエを付けやがれ!」
「十分な金を持っていないらしい。手下の不始末は、親玉である、君に責任が及ぶと思うが……。
二十万、即金で払ってもらいたい」
「ふ、ふざけんなぁぁぁぁ!」
虎白の怒鳴り声に不快感を感じ、狼牙は眉間に皺を寄せた。
「さもなくば、この弾丸を持って、警察に届ける」
狼牙は、弾丸を取り出し、言った。
「この弾丸を、二百万で買い取って貰うと考えてもらって構わない」
狼牙は、虎白の前の机の上に、その弾丸を置いた。
「冗談じゃねェ!誰がそんな大金……」
「君たちヤクザにとっては、端た金だろう」
「一雄!拳銃を持っていて、どうしてコイツを仕留めなかった!俺は知らんぞ!テメェでケツを吹きやがれ!」
「効かないんスよ、拳銃が!効いたら、こんなところに連れて来ないッスよ!」
虎白は、眉間に皺を寄せて復唱した。
「拳銃が……効かない?
面白いじゃねぇか。なら、コイツはどうだ?」
虎白は机の引き出しを引っ張り、中から大振りの拳銃を取り出すと、狼牙の頭目掛けて放った。
大きな銃声が響いた瞬間、狼牙は素早く右手を動かす。
「「……?」」
そして、左手で人差し指を横に振り、チッチッチッと舌打ちをした。それから、右手の内に収まっていた弾丸を左手で摘み、二人に見えるように示した。
「これだけ間合いがあれば、受け止めるのもそう難しいことではない。
それにしても……」
「ば、化け物め!」
「虎白サンは人のこと言えないッスよ、十分」
「うるせぇ!」
狼牙は、二人の会話がひと段落するまで、不機嫌そうな顔で黙っていた。その間に右の掌を見て、それから――
「……痛いじゃないか。また、跡がついてしまった。
二発で四百万、と言いたいところだが、三百万は出してもらおうか。……口止め料も含めてな」
コンッと小さな音を立てて、弾丸が再び机の上に置かれた。こちらの弾丸の方が、一回り大きい。