虎白

第9話 虎白

「どうした、山鹿やまが。そいつ、新入りか?」

「それが……。

 虎白サン、いないッスか?」

「奥だ」

 その男・山鹿やまが 一雄いちおは、更に奥へと進んだ。だが、狼牙は。
 
「ふむ……。これだけいるのなら、十分な金額はありそうだな」

 立ち止まったままそう言って、居並んだ顔に、一通り目を通した。
 
「おい!早く来やがれ!

 ……おっと」
 
 大声で叫ぶと、一雄は瞬間ふらつき、倒れそうになったところを持ち直した。
 
「何だ。無理をして大声を出していたのか。それで、僕を脅すつもりか?

 ……はっきり言おうか?
 
 僕は、ここにいる全員を敵に回しても勝てる自信がある。生半可な脅しは通用しない」
 
「フンッ!テメェでも、虎白サンには勝てないぜ。何しろ、普通の人間じゃないからな」

「……普通の人間じゃない?

 それは興味深いな。是非とも、会ってみたいものだ」
 
「……虎白サンを怒らせたくないなら、グラサン取れよ。マジで殺されるぞ?」

「……どうやって?」

「一度、見ただけだが、虎白サンは人間の頭蓋骨を片手だけで握り潰しちまった。テメェより、力は上だぜ?」

「僕は、全力を出していなかった。全力を出せば……そうだな。そのくらいは可能かも知れない」

「フンッ。

 テメェ、虎白サンからは、思いッきり好かれるか、思いッきり嫌われるかのどちらかだな。
 
 俺らの仲間になってくれるのなら、好都合だがな。……俺は気に入らねェけどな」
 
「嫌ってくれて結構だ。僕も、ヤクザは気に入らない。

 さっさと、その『コジロサン』とやらに会わせてくれ。事情を説明し、金を貰う。
 
 それだけで、僕は十分だ」
 
「フンッ!そう簡単に、虎白サンが金を出すと思うなよ」

「その時には、君が払ってくれるという話になっていたな。是非とも、借金をしてでも支払って欲しいものだが」

「テメェの軽口が、いつまで続くのか、楽しみだよ。

 虎白サンの正体を見たら、テメェ、ちびるぜ」

「いいから、早く会わせてくれ。その、『コジロサン』とやらに」

「……いいだろう。

 虎白サン!入ります!」
 
 ノックをしてそう言い、一雄は扉を押し開けた。
 
 奥に見えたその向こうに、いかにも狂暴そうな顔をした男が、煙草をふかして椅子に座っていた。