アーチェリー部活動

第23話 アーチェリー部活動

 話があると、パフェはウィリアムに呼び出された。
 
 場所は、アーチェリー部の部室。パフェには、久しぶりの場所だった。最近、何となく部活は休みがちだった。
 
「どうして部活に来ない?」

「うーん……忙しかった、って言う程忙しかったわけでもないんだけどね。何となく、かな?」

「大会が近いんだぞ!分かってるのか?」

「大丈夫。優勝するから」

「説得力が無い!」

 ウィリアムを無視したわけではないだろうが、パフェの視線が、ウィリアムの左腕に向けられる。そして、おもむろに掴んだ。
 
「痛ッ!」

「アームガード、買い換えたら?腕、痛めているじゃない」

「君に勝つためだ!このくらい……」

「満点を目指せば良いだけでしょ?

 究極の目標を言葉にするのは、これほど簡単で、それを実行するのはこんなに難しい競技も無い筈よ?」

「出したんだ、一度だけ!」

「……クローズド・スタンスね?」

 感心してくれることを期待したウィリアムは、その指摘に驚いた。
 
「……どうして分かった?」

「アンタ、時々試してたでしょ?

 その時の成績と、腕の状態。ヒントとしては十分だったわ。
 
 でも、止めなさい。長く続けるべきやり方では無いわ」
 
「満点を出す為だ!仕方ない!」

「フォームが、安定するんでしょ?」

「……ああ」

「そろそろよ、安定性が失われるのは。

 腕の痛みが、フォームを歪ませるの。無意識に、ね。
 
 アンタなら、オープン・スタンスでも全国を制せるわ。戻すべきよ?」
 
「……だな。練習をサボっているパフェに勝つには、それでも十分だ」

 ウィリアムの、精一杯の嫌味だった。パフェは、それにも気付いて、怒りよりもウィリアムの為になる事を考える方に意思が向いた。
 
「そうね。アタシに勝つ、その為だけにクローズド・スタンスを選んだのなら、アンタはそれまでの男よ。

 風も見えないアンタの目で、的の中央は射抜けないわ」
 
「……そうか。風に合わせるには、フォームに多少の余裕が無いと、変えられないってことだな。

 ガチガチに固定されたクローズド・スタンスのフォームではダメなんだ」
 
「……今頃、気付いたって口ぶりね」

「でも、ならどうしてそれで満点を出せたんだ?」

「学校の射場でしょう?同じ地形なら、同じ風が吹く確率は、高まるわ」

「いつも、そんなことを考えていたのか?」

「考えていたんじゃない。見えていたの」

「いつもそれだよ!

 風なんて、見える筈が無いじゃないか!
 
 矢が悪いのか?
 
 カーボンの細い矢に変えたら、風の抵抗を受けづらくなって、成績が上がるのか?
 
 でも、そんなに簡単に買い換えられるほど、安い物じゃないだろう!」
 
「矢が良ければ、アタシに勝てるとでも言うつもり?

 なら、買ってあげるから、賭けに乗ってよ。
 
 アンタが勝ったら、その代金、アンタには請求しないわ。
 
 けど、アタシが勝ったら、アンタはアタシの奴隷になってよね」
 
「ヤだよ。隠れて練習していたんだったら、僕に勝ち目がないじゃないか!」

「……そう」

 ウィリアムに自信を与えるのは、パフェが思っていたよりも、遥かに難しいことらしかった。
 
 彼に足りない、最大の難関だ。
 
「じゃ、全国大会で優勝してみせてよ。

 そしたら、カーボンの矢、買ってあげる。
 
 だから、全国大会で勝負よ!
 
 賭けないから、受けて立ちなさい!」
 
「……分かったよ」

「但し!

 クローズド・スタンスは禁止よ。それ以外の条件は要求しないから」
 
 その日から、二人の猛練習は始まった。