第18話 緋三虎の涙
ご先祖様のセンスが知れる、蔦の這う怪しい洋館。
人を寄せ付けない、不気味さを強く帯びている。
カラスが群れていなければ、もっと雰囲気が出そうだ。
「ここなのか?」
「ええ。入りましょう」
重そうな門を、パフェは軽く押し開ける。
「金は必要か?」
「持って行った方が、良いでしょうね」
勝手を知った家のように、パフェはずんずんと進み入る。
アタッシュケースを持った虎白が、それに続いた。
「祖父ちゃーん」
「緋三虎ぉー!」
靴も脱がぬまま、応接間へと。
そこにいたのは、緋三虎が――涙を流して泣いている。
「緋三虎!」
虎白が駆け寄る。パフェは、立ち止まって様子を窺った。
「父さん……ごめんなさい……」
「何を謝る事がある!
怪我をしたのか?何かされたのか?」
「違うの……」
事情を飲み込めぬ、虎白。
パフェは、ご先祖様の登場を待った。
やがて、ポンッとパフェの肩に背後から軽く手を乗せられる。
「お前の仕業だな?」
「祖父ちゃんも、困ったでしょう?」
「うむ。とりあえず、隠れとった」
緋三虎が、スマホの画面を虎白に見せる。その文面を見て、虎白はパフェの方を向いた。
「それで、スマホを――」
「父親の威厳を、持ちたいでしょう?」
良いことをした。パフェはそんな満足感に浸っていた。
「余計な事を……。
……感謝する」
本人の口から告げるのは、虎白の美学に反するに違いあるまい。
でもなければ、今まで黙っていた筈が無い。
「金は、持って来たぞ」
「貰えるのならば、貰っておこう。
……儂も、こんな事態になるとは、思わんかった」
泣く子にゃ、勝てぬらしい。
幾ら強いと言っても、ウィルスで人間離れしていてもなお、根本は人間だ。
「緋三虎ちゃん。分け前の300万は、持って行くと良い」
「いや。必要なら俺がやる。
全額置いて行くから、少し――二人っきりにして貰えないか?」
「そう言って貰えると、実は助かる。
李花。ちょいと、2階にでも行っていようか」
「李花ちゃん!」
部屋を出るパフェを、虎白は呼び止めた。
「済まない。
俺は、ようやくこの娘の父親になれた気がする」
「貸し、一つよ?」
「……重てぇ、借りになっちまったなぁ」
虎白の胸を借り、泣く緋三虎。パフェは、背中を向けて部屋を出、微笑んだ。