第9話 人間の限界
「人間の限界に囚われている間は、アタシらに敵わないと思いなさい。
世界記録を更新するほどの能力。それを求めたら、近付けるかもね」
「その能力を、何故活かさない!」
「……必要無いからよ」
「必要無いだってぇ!?」
泣きそうな、柔道男。
「アナタは、義務を感じないのか!
人間離れしたその力!それを活かす義務を!
俺ですら、感じる!頂点を目指す義務を!
それを、必要無いだって!?
ふざけるな!それを求めている人間が、世の中にどれだけいると思う!
優れた人間は、優れた能力を持っている証を、世に示す義務を背負っているんだ!
それが、優れた能力を持ってしまった人間の、責任なんだよ!」
「だってぇ。人間じゃないし。
それに、私だって狙っているのよ。オリンピックで金メダル。アーチェリーでね。
日本が、もっとアーチェリーという競技に力を入れていたら、スカウトされていてもおかしくないだけの成績を、中学の時に出しているの。
……でも、そんな話は来なかった。
……分かる?アタシの気持ち?」
「……俺たちは、この程度の腕でも、誘ってもらえた。
あなたは、選ぶべき競技を誤ったんだ」
「アタシが先駆者にならなければ、日本はまだしばらく、アーチェリーという競技に注目しない!
銀メダリストは出た!次は金メダルよ!
それでもなお、費用の問題で、競技人口が増えるという保証は無いの!」
「なら、どうしたいんだ!それだけの能力があれば、他の競技でも良い筈だ!」
「アーチェリーという競技は、完璧と言える成績を出すことが可能な、数少ない競技よ!相対的にじゃなく、絶対的に!
アタシは、それを目指したいの!」
「なら、姫は!」
いきなり話を振られ、緋三虎はきょとんと様子を窺う。
「私ぃ、すぽーつは苦手なの」
「「嘘つけぇぇぇぇ!」」
パフェも、それはあまりにも、「違うだろ」とは思った。
「乱暴な事は嫌いですし」
「格闘技である必要は無いでしょう!」
「お淑やかさは、大和撫子の美徳ですし」
「でも!」
柔道男は。握る拳に想いを込める。
「それを眠らせる事は、人類にとって、大きな損失……!」
「人類の為に、そんな事をするつもりはありませんわ」
その時、パフェは急に一つのアイディアを思い付いた。
「虎白オジサンに、コイツらの稽古をつけるよう、頼んでみたら?」
「えっ……?」
柔道男も、勿論、空手男も、その提案にはちょっと引く。
「虎白サンの出した条件が、それなりの結果を出す事、ッスよ?」
「うーん……」
虎白が鍛えるには、まだまだレベルが低いということだろうか?
パフェはそう考えてから、緋三虎に視線を送る。
「私か李花が頼めば、確かに鍛えてあげてくれることには、くれると思いますけど……」
「……それで、強くなれますか?」
小首を傾げる緋三虎。パフェがそれをフォローする。
「保証するわ。
けど、地獄を見るわよ」
「地獄を見るのは、構わない。
けど、その後に世界一なり――せめて日本一ぐらいの、天国を見たい」
「虎白オジサンなら、そういった大会への出場へも、導いてくれるわ。
……多少、非合法スレスレのルートを使ってでも。
そこから先は、アンタら次第。
条件としては、どうよ?」
空手男と、柔道男が顔を見合わせる。その目に、炎が宿っていた。
「「お願いします!」」
パフェは自分の荷物の中からスマホを取り出し、即座に話をまとめた。
「覚悟を確認し、ジムまで案内してやってくれ、ってさ」
「……いつ?」
「今」
まとめるにしても、パフェのやり方は、あまりにも早急だった。