パフェ

第1話 パフェ

 教室の中、ガムでも噛んでいるのだろう。顔だけでは無くて、スタイルも日本人離れしているほど綺麗なその女の子は、不良じみた態度で、くっちゃくっちゃと口を動かしている。
 
 その仕草が、その容貌にあまりにもそぐわない。魅力、65%カーット!……ってな感じだ。
 
 その女の子・結城ゆうき 李花りかは、鞄の中から財布を取り出して小銭を探る。
 
「あっちゃー。両替、忘れてたー!

 ひーみこっ。一円玉、ある?」
 
 隣の席に座る李花の幼馴染、久井くい 緋三虎ひみこは、手を向けて「待って」とのジェスチャー。読みかけの本を、区切りの良い所で栞を挟み、小銭入れを取り出す。
 
「何枚ある?」

「……三枚、かな?」

 差し出された三円を、「サンキュー」と軽く礼を言って李花は受け取り、その一枚を口の中に放り込んだ。
 
「噛み終わったの、出しといてね。二枚分を一つにして渡されても、一円分しか払わないって言われているの。計算が面倒だから、って」

「別にいいよー。お金の為にやっていることじゃないし」

「私の取り分も減るの!」

「はーい」

 李花は、冒頭で口に含んでいた、一円玉だったものを口の中から取り出した。何故か、その色は『金』。
 
「これの純度って、どれぐらいになっているものなのか、聞いておいてって、前に頼んでおいたよね?」

「90%以上。平均したら、97%ぐらい。

 結構いいお金になるそうよ」
 
「そりゃ、私が貰っている代金と、利益が上がっているだろうという前提から考えれば、予想はついているけど。

 ……笑いが止まらなくなる位、ってなっているようだったら、一緒に吹っ掛けようか?」
 
「父さんの金銭感覚、おかしいから。生半可な金額じゃ、眉一つ動かさないよ?」

「そっか。なら、現状で満足しとこう」

 一円玉をガムのように噛む。
 
 そんな彼女が、普通の人間である訳が無い。
 
「……知ってる?

 この学校の生徒に、吸血鬼が紛れ込んでいるんだって」
 
 さほど遠くない席で、女子がそんな話題で盛り上がっていた。
 
 緋三虎が、李花に視線を向ける。
 
「……だって」

「ヘヘッ。……笑えるね」

 吸血鬼が、一円玉を好んで噛むとは思うまい。……もっとも、正確に言えば、吸血鬼の血だけが、そうさせるわけでは無いのだが。
 
「探すの、手伝ってあげたら?」

「面倒。パス」

 緋三虎は耳を傾けながらも、視線は向けない。
 
「何が面倒なの?」

「どうやって、それを証明する?」

 李花に、牙と呼べるほどの牙は無い。それを、犬歯を指差す事で示した。
 
 真っ白なソレは、普通の人より、ほんのちょっとだけ長い。言われなければ、誰も気付かない程度だけれども。
 
「伸ばせないの?」

「後処理が面倒」

 伸ばせば、抜いて、再び不自然ではない長さに、また伸ばさなければならない。
 
 簡単に、すぐに出来ることではない。……不可能ではないところが、常人ではない証拠だが。
 
「パフェ!何やってる!」

 教室の入り口に立つのは、赤いジャージ姿の白井しらい てる
 
「新勧だろ、今日は!」

「あー……忘れてた。

 急いで行くから、先、行ってて!」
 
 聞いていた緋三虎の顔には、疑問符が。
 
「……『パフェ』?」

「昨日の練習で、720点満点を取ったの。それに……ほら。アタシって、パフェが大好物でしょ?だから……」

「パーフェクトから?」

「そう。仕返しに、輝には『ウィリアム』って渾名を付けてやった」

「……前からじゃない?」

「とにかく!急いでんの。詳しくは、後で」

 今日は、部活動の新入生を勧誘する、大切な日だったのだ。