暴走する超能力

第41話 暴走する超能力

「よし、終了。

 ここからが勝負だ。
 
 対デュ・ラ・ハーン用プログラム『ルシファー』発動!」
 
 紗斗里が作業を楽しんでいる証拠に、段々と紗斗里の顔が笑顔に変わって来た。
 
 だが、不意にその表情が拍子抜けしたものに変じた。
 
「あれれれ?全然増幅率が足りないぞ。

 『ビャッコ』12個は多すぎたか?」
 
 そう言って後頭部に手を伸ばし、プラグを一つ外すと、途端、爆発的に無数のサイコワイヤーが紗斗里から発した。
 
「うわああああ!」

「どうしたの、紗斗里!?」

 紗斗里の上げた悲鳴に、睦月が心配して声を掛けた。
 
「ち、力が暴走しそうだ……!

 び、『ビャッコ』は、こんなにも力を抑え込んでいたのか!」
 
 苦しそうに、紗斗里は抜き取ったプラグを元に戻す。
 
 戻すと、急に負担が無くなり、落ち着くことが出来た。その代わり――
 
「おや?サイコワイヤーが三本しか出せないぞ。

 極端だなぁ。こうなったら、『ビャッコ』を一つ外した状態に慣れるしかないじゃないか。
 
 でないと、デュ・ラ・ハーンにはとてもじゃないが、勝てないからなぁ」
 
「何が起きたの?ねぇ、紗斗里!」

 詰め寄る睦月に、紗斗里は「まぁまぁ、落ち着いて」と宥め、説明を始めた。
 
「楓の装備している12のプラグ全てに、超能力を抑えるサイコソフト『ビャッコ』を移植し、その上で超能力を増幅するサイコソフト『ルシファー』をインストさせ、試しに『ビャッコ』を一つ外したら、どの程度の超能力を使えるのかを試してみた訳ですよ。

 結果。暴走しそうな程の超能力に目覚めている事が判明した訳ですが……。
 
 これでは香霧ちゃんに感染させる訳にはいかなくなりましたねぇ。
 
 香霧ちゃんは、12個ものソケットなんて、持ち合わせていなかった筈だし。
 
 それにしても、運が良かった。一つでも楓のソケットが少なかったら、力が暴走しているところだった。
 
 ……待てよ。ひょっとしたら、僕と繋がっているから、そんな力が発動したのか?
 
 だとしたら、試さねばなるまい」
 
 紗斗里が目を瞑り、後頭部の六角プラグを引き抜くと、再び目を開けた時には楓に入れ替わっていた。
 
「紗斗里。面倒な部分だけ、僕に任せようとしていない?」

「それは誤解ですよ、楓。

 僕がやるのに相応しい仕事を僕が担当して、楓で無ければ出来ない仕事を、楓に任せているだけです。
 
 面倒な部分だけ楓に任せているなんて、お門違かどちがいもはなはだしいですよ」
 
「それなら良いんだけど……。

 それで?具体的にどうすれば良いの?」
 
「出来るだけ人気の無い所で、僕とネットを組まず、プラグを一つ、外して下さい。

 その状態で超能力を制御することに十分成功したと言える状態になったら、僕とネットを組んで下さい。
 
 最終的には、その状態で超能力を制御出来るようになるのが目標です。
 
 それさえ出来たら、デュ・ラ・ハーンとも互角に戦い合うことが可能になるでしょう」
 
「富士山麓の樹海なんか、良いかなぁ?」

「場所の選択は、楓に任せます」

「じゃ、ちょっと行ってくるね」

 『ちょっとそこまで行ってくる』みたいな感覚でテレポートした楓を見て、研究室の皆は、改めて超能力を使うということがどういうことなのか、実感した。
 
「本当に楓は、富士山の樹海まで行ったの?」

「恐らく行ったんじゃないですか?」

 そうは言われても、この研究室、実は楓がいることを前提に研究を進めて来た研究所である。
 
 楓がいなければ進まない仕事を山のように抱えている。
 
 唯一人、超能力のジャミング・システムの開発を始めた疾風を除いて、楓が居ない間に済ませるべき仕事は済ませてある。
 
 なので、それぞれは紗斗里の端末を弄って適当な作業を進めながらも、楓の帰還を待っていた。
 
 そして、待つこと暫し。
 
「おっ、成功したのか。どれどれ……。

 良しっ!期待した以上の成果が……あ、あれ?これじゃあ、理論値を超える能力があるってことになるんじゃないかな?
 
 とにかく、皆さん。『ルシファー』は成功を収めましたよ。もう少しで、楓は帰還します」
 
 そうと聞いては、疾風を除く皆、他の作業などやっていられない。ただひたすら。楓の帰還を待った。
 
「けど、これじゃあ『ルシファー』は危険すぎて、インターネット上のデュ・ラ・ハーンを食い潰すウィルスとしては使えないなぁ。

 仕方ない。『ビャッコ』の方をウィルス化して、デュ・ラ・ハーンを封じるか。
 
 楓が戻って来るまでには終えられそうな作業だし、やっておくか」
 
 この、何気無い言葉の中に、睦月は驚きを見い出した。
 
「……!紗斗里!

 あなた、アイディアを出すなんて器用な芸当、一体、いつの間に手に入れたの?」
 
「楓がデュ・ラ・ハーンを持ち込んでくれたお陰ですよ。

 参考にして、取り入れてみました」
 
「デュ・ラ・ハーンって、そんなに器用なプログラムだったの?」

「人工知能として、僕と比べて一長一短。互角に近い出来でしたね」

「侮っていたわ、デュ・ラ・ハーン……」

 そんなやり取りをしている間に、楓は帰還した。
 
「おかえりなさい、楓」