本物のグングニル

第38話 本物のグングニル

『この化け物め、なんて数のサイコワイヤーを繰り出すんだ……!

 超能力を使う能力においても、化け物のようだ!』
 
『NO!この位の能力で、化け物と言って貰っては困るネ。

 未だ、グングニルも繰り出していないのですカラ。
 
 まだまだ、人間でも追い付けるレベルですヨ。
 
 さてさて。サイコワイヤーを全て捉えられたYouが、この攻撃をどうなすのか、Meはとっても興味がありマース。
 
 Go!ファイア・ボール!』
 
 突き出した指先から放たれた火の玉は、一直線に東矢へと向かった。
 
 東矢は横には逃げず、上へ――。
 
 それは、人間の為せる跳躍では無い。明らかに、飛んでいる。
 
『ワイバーンか!』

 デュ・ラ・ハーンは叫ぶと、突き出していた指を、拳ごとひっくり返してくいっと突き上げた。
 
 すると、東矢の居た空間を通り過ぎようとしていた火の玉が、真上に進路を変えた。
 
 火の玉は接近してみると、予想以上に大きく、東矢は避けられないと判断した。
 
 火を扱う能力『サラマンダー』は、ドラゴンの発したエネルギーをただの炎に変えるだけの能力を持っている。
 
 ドラゴンによるバリアでは防げない。否、火に油を注ぐ結果になるだろう。
 
 そこまで予想しておいて、東矢は手を打った。
 
『ブリザード!』

 冷気の渦が火の玉を包み込んだ。
 
 火の玉は徐々に小さくなり、最後に東矢の展開するバリアに触れて、それを炎と化し、そして消え去った。
 
 東矢に、怪我や火傷は無い。
 
 バリアは、再び展開すれば良いだけの話だ。
 
『むぅ……。なかなかやりますねぇ。殺すのが勿体無い。

 でも、その程度の腕で、生かしておくわけにもいかないのですヨ。
 
 そーれ、ラーイトニング!』
 
 掛け声の後に一瞬の閃光。それが見えた時には、かわすには手遅れである。
 
 全身が感電したように――いや、感電しているのだが――痺れ、体をバラバラに千切られるような感覚が走った。
 
 東矢と、そして、レベルの高いテレパシーを使っているが故に、楓のテレパシーで感覚を共有している全員にも痺れが走った。
 
『『『うわああああああああ!』』』

『う~ん。悲鳴と云うのは、何度聞いても気持ちの良いものですネェ。

 ですが、断末魔の方がもっとイイ。
 
 そろそろ、仕上げと行きますカネ?』
 
 デュ・ラ・ハーンが生み出した光の槍。十中八九、それはグングニルだろう。
 
『サヨ~ナラ~』

 笑いながら云ったような震えるその声と共に、デュ・ラ・ハーンは槍を投げ放った。
 
 東矢は、よろめくように体を半分、躱した。だが、それだけではそのグングニルは避けきれない。
 
 だが、デュ・ラ・ハーンの放ったグングニルは、東矢のすぐ傍で軌道を変え、逸れて行った。
 
 東矢の手に握られているもの。それは――グングニル!
 
『ほう……。グングニルを扱えるとは、中々の使い手のようですネ。

 ですが、それだけでは足りまセーン!
 
 分身の術!Ha-Ha-Ha-!』
 
 発しているサイコワイヤーの内、東矢のサイコワイヤーをCATしているものを除く全ての先端に、デュ・ラ・ハーンの姿が発生した。
 
『このうち、一体だけが本物のMeデース。これからグングニルを放ちマース。

 Youに本物のグングニルが止められますカナ?
 
 Ha-Ha-Ha-!』
 
『クッ!』

 全てのデュ・ラ・ハーンが、グングニルを構えた。
 
 ――どれが本物だ?
 
 東矢は真剣に観察した。
 
 本気で命が掛かっているこの場面に追い詰められて、冷静さを欠いていたのだろう、そのことに気が付いた時には苦笑してしまった。
 
 サイコワイヤーの出所を辿れば良いのだ。全体をパッと見渡して、サイコワイヤーの出所はすぐに判明した。
 
 ――距離がある。今度は躱せる。ならば、グングニルは攻撃に使おう。
 
 瞬間的にそう考えて、攻撃の瞬間に備えた。
 
『死ィねェェェェ!』

 これだけのリアクションをして来たデュ・ラ・ハーンだ。攻撃の際には必ず何らかの切っ掛けを作る筈だと思っていた。
 
 そして事実、その通りだった。
 
 その攻撃の隙を狙い、グングニルを投げ放つ。
 
 放たれた東矢のグングニルは、狙いを違うことなく、デュ・ラ・ハーンの心臓に突き刺さった。
 
 それとほぼ同時に、東矢は左足に一瞬の強い痛みを感じて、見下ろした。
 
 そこには、一本のグングニルが突き刺さっていた。
 
 そして、何本ものグングニルが次から次へと、東矢の身体に突き刺さって行く。
 
『な……!』

『ヒャハハハハハ。残~念。グングニルは、全て本物でしたヨ。

 ……おや?未だ生きてマスか。
 
 仕方が無い。止めを刺して差し上げまショー』
 
 最後に、頭部に強い痛みが走り――
 
 そして、東矢の意識は途切れた。
 
「香霧!」

 楓は、その結果を知るとすぐさま香霧とテレパシーを繋いだ。
 
『香霧!』