対戦する東矢

第37話 対戦する東矢

「始まった」

「何が?」

 説明は後に回して、楓はサイコワイヤーを5本伸ばし、研究員全員にテレパシーで東矢の脳裏に閃いたイメージを送り込んだ。
 
 
 馬が2頭、駆けて来る。首の無い馬が。
 
 戦車を牽き、その上に首の無い人型をした化け物を乗せて。
 
『Ya-Ha-!

 Hey、You!約束通り、迎えに来マシタ!
 
 この1年、満足の行くまで、楽しみましたかネ?デハ、お命頂戴致シマース!
 
 但ーし!Meに勝ったらその命、見逃して差し上げまショー!
 
 まずは、この1年の修行の成果、見せてもらいまショー!
 
 ドラゴン位は使えますかネ?デハ、マズ、ドラゴンの攻撃、受けてもらいまショーか?
 
 ご静聴頂いたお礼に、防御用にドラゴンを展開する時間を差し上げまショー。
 
 代わりに攻撃して下さっても、一向に構いまセーン。
 
 しかーし!
 
 グングニルでも使わない限り、Meのバリア、貫けまセーン。
 
 Come on!』
 
 東矢の立場から見えるその映像に、研究室の5人は、慌てふためいた。
 
「何なの?この映像は?」

「チーフも?」

「えっ、小柴君も?」

「おいおい、皆に見えてるのかよ、この映像。

 一体、何なんだ、コレは?」
 
 皆の動揺を抑えるべく、楓は振り向いて事情を説明する。
 
「ママ。それに皆さん。

 これは、僕の友人の香霧のお兄さんの、デュ・ラ・ハーンに感染してから今で丁度1年の、古賀 東矢さんという人の脳裏に現れた映像です。
 
 もう、助ける事は出来ないでしょうが、この映像は、デュ・ラ・ハーン対策に利用できる貴重なデータだと思って皆さんに見せています。
 
 どうか、彼の死を無駄にしないよう、しっかりとこの映像を脳裏に焼き付けて下さい。
 
 お願いします」
 
「そうか!これは楓ちゃんの超能力……テレパシーによるものなのか!」

 疾風は理解が早い。
 
 それで納得しただろうと思い、楓は映像の方に集中した。
 
 映像は、楓が話していた間にも止まっていた訳では無い。
 
 東矢はドラゴンによるエネルギー・コントロールでバリアを展開し、すぐに攻撃用の超能力を発動させた。
 
『ライトニング!』

 楓や香霧が遊びで使っていたような、チンケな電流では無く、自然に発生する雷に匹敵するレベルの電気の奔流が、東矢からデュ・ラ・ハーンに向かって走った。
 
 楓たちに、そのレベルの電流を生み出す事が出来ない訳では無いが。
 
 受けるデュ・ラ・ハーンは、恐らくドラゴンによるものと思われるバリアのみで、イージスを展開してはいない。
 
 稲妻は、デュ・ラ・ハーンを貫いた。
 
『ほぎょぐらええええ~!』

 デュ・ラ・ハーンは何か、デタラメな悲鳴を上げたが、どうやら死んではいない様子。
 
 東矢は、躊躇わずに第2撃を繰り出した。
 
『ファイア・ボール!』

 だが、二度も三度も、ただ攻撃を喰らうだけのデュ・ラ・ハーンでは無かった。
 
 速やかにイージスが展開され、その最強の盾の前に、ファイア・ボールは散った。
 
 チッチッチッと舌打ちして、人差し指を振るデュ・ラ・ハーン。
 
『最初に炎の攻撃をされていたら、危なかったネ。

 炎は、我々アンデッド・モンスターの大敵ですからネ。
 
 もっとも、爆発を主目的とするファイア・ボールでは、その効果も疑わしいネ。
 
 反撃していいカナ~?』
 
「こっ、こんなふざけた奴がデュ・ラ・ハーン?

 俺たちは、こんな奴に振り回されていると云うのか?」
 
 疾風の云う通り、デュ・ラ・ハーンの口調はあまりにもふざけている。
 
 特に、今の『カナ~?』の辺りに、その事が顕著に表れている。
 
 疾風は露骨に顔を顰めているが、それも無理のない話と言えよう。
 
『まずは、ドラゴンで様子見と行きまショー!

 Hey、GO!』
 
 デュ・ラ・ハーンが手を掲げたかと思うと、光の塊が幾つも彼の周囲に浮かび上がり、それが彼の『GO!』の合図で一斉に東矢に向かって襲い掛かった。
 
 即ち、見ている者には、自分に向かってその光の塊が襲い掛かって来るように見えた。
 
「うわあっ!」

 そのせいだろう、小柴が悲鳴を上げた。
 
「安心して良いよ、小柴おば――お姉さん。

 これは、ただの映像だから」
 
 40近い小柴に、「お姉さん」は言い過ぎたお世辞だが、小柴はそれを聞いてすらいなかった。
 
 エネルギー・コントロール能力・ドラゴンによってデュ・ラ・ハーンから放たれたそれらの光の塊は、同じドラゴンの能力の一部である、東矢のバリアに吸い込まれるように消え失せた。
 
『第一次試験、合ー格ー!

 第二次試験は……そう、Youが繰り出したライトニングの真似事でもしてみるネ。
 
 コレは、イージスでも無い限り、防げないヨ。Youはイージスは使えるのカナ~?』
 
『――そのイージスとやらを、僕は知らないのだが……』
 
『Oh,NO!Youの命、それではもう無いも同然ネ。

 グングニルを使う必要もありまセ~ン。
 
 Good Bye!
 
 ラーイトニング!』
 
 返された技を、大人しくタダで喰らう奴はいまい。
 
 ささやかな抵抗に、東矢は瞬間的にサイコワイヤーを伸ばしてテレポートしてそれを避けた。
 
 そして、今度こそはと念を込めて放った。
 
『ファイア・ストーム!』

 雷が東矢の元いた場所を通り過ぎ、そして別の場所に現れた東矢の手から、渦巻く炎が流れ出た。
 
 それはデュ・ラ・ハーンを襲おうとするが、気配を感じたデュ・ラ・ハーンが、イージスの位置を変えただけで、あっさりと防がれてしまった。
 
 更にデュ・ラ・ハーンは、100本近いサイコワイヤーを東矢の周囲に展開し、それからテレポートで逃れようとした東矢のサイコワイヤーを、次々に捉えていった。
 
『この化け物め、なんて数のサイコワイヤーを繰り出すんだ……!

 超能力を使う能力においても、化け物のようだ!』