第28話 パンサー対パンサー
「一応、電話だけしてみるよ。待っててね」
そう言い残し、スマホを置いてあったのだろう、東矢は自分の部屋へと戻ったようだった。
そしておよそ5分後。彼は戻って来た。
「会ってくれるそうだよ。彼も、君に話があるそうだ。
すぐに行くかい?」
「うん」
「じゃあ、ちょっと身支度をする時間だけ、待っていてくれるかな?」
「僕一人で行くから、別について来なくて良いよ」
「え~、私も行くー」
香霧はそう駄々をこねる事で楓の単独行動を阻害しようとしたが、東矢の方はしっかりとした理由を告げ、阻害する。
「そうはいかない。
君一人で行ったら、何かあった場合に僕の責任になるんだ。
君の身に万が一の事があったら香霧が悲しむし、僕自身、仲間との揉め事の種は蒔きたくない。
だから、ちょっと待っててね。良いかい?」
「分かった」
そうは言ったものの、楓はいかにも渋々承知したという様子だった。
東矢は駆けて行くと、5分も経たない内に戻って来た。
服装に特別な変化は見られず、恐らくスマホと財布を取りに行ったものと思われた。
「電車とバス、どっちが良い?」
「お金、持ってきてないからテレポートで」
「その位、僕が支払っ……ちょ、ちょっと!」
楓には、どうやら強引なところがあるらしい。
東矢と香霧にサイコワイヤーを繋ぐと、更にもう一本のサイコワイヤーを彼方へと放ち、その僅か後には、とある喫茶店へとテレポートしていた。
何故か、彼女ら3人の足元には、彼女らの靴もある。とりあえず三人は、それを履いた。
「古賀先輩……」
テレポートする為のサイコワイヤーをCATしようとしていたのか、席から立ち上がり、一本のサイコワイヤーを放つ男がいた。
他にその喫茶店に客は無く、その男がクルセイダーの現リーダーだと思われた。
「い、いらっしゃい」
店の女性マスターが、突然現れた三人に驚いている。
やはり、間違いない。警戒心を露わにして、サイコワイヤーを放っているその男が、リーダーだ。
「マスター、コーヒー3つ追加」
男はそう注文してから、「まあ、座るといい」と言って、東矢に自分の隣の席を、向かいの席に楓と香霧を座らせた。
「便利なものだな、レオパルドは。
どれだけの数のサイコワイヤーに対しても、それを防いでくれる。
先程のは……楓というのは、どちらなのかな?」
答える代わりに、楓は東矢と目を合わせ、言った。
「僕の名前、教えちゃったの?」
「駄目だったかな?」
楓は、今度はリーダーと目を合わせ、「別に構わないけど」と言う。
「君か。
君、クルセイダーに入るつもりは無いかな?」
「ヤだ」
即答。これには、男も少なからず機嫌を損ねた。
「何故?」
「名乗りもしないで、いきなりそんな、決して軽くない要請をするから」
男はハハハと笑い、「それもそうだな」と、自らの過ちを素直に認めた。
「すまなかった。
俺の名は、谷内 陸夏。あとひと月ぐらいはクルセイダーのリーダーをやっている予定だ。
君は?名は楓と聞いたが、苗字を聞いていない」
「式城。式城 楓。よろしく」
楓が差し出した手に――
「よろしく」
谷内も手を差し出し、握手した。……のは良いのだが、楓が中々手を離さない。
「はっはっは。フェンリルを使おうとしているのかな?
確かに、接触すれば、レオパルドの影響を受けず、フェンリルを使える。
しかし、パンサーの影響下にあれば、フェンリルは使えない。
その程度の警戒は――」
「そうか。パンサーを使えば良いのか」
「――当然」
余裕で言い切った後、谷内は真っ青になった。
「馬鹿な!パンサー対パンサーは、お互いのパンサー以外のほとんどの超能力を封じられる筈だ!
それなのに、何故、お前のフェンリルが発動し、俺の超能力が一方的に封じられている!」
「それが分かるだけでも凄いと思うよ」
楓と同じく、東矢もそう思った。
東矢はあの時、楓にフェンリルで心を読まれている事に、全く気付かなかったのだ。
「何故だ!何故この状況下でフェンリルが使える!」
「僕の能力が、並外れて強いからじゃないかな?」
「そんな……こんな子供に、そんなに強い能力がある筈が無い!」
「証拠、見せようか?」
放たれる、100を優に超えるサイコワイヤー。
反射的に谷内もサイコワイヤーを展開してCATするが、その数は10を大きく上回るものではない。
「へぇ……。キャットはパンサーでも防げないんだ」
「この、化け物め!」
「……!」