第22話 拒絶反応
紗斗里の見解は、以下の通りだった。
「何を言っているのです。原理は簡単な事ですよ。
メモリーワイヤーによる増幅と、原理は大差ありません。
いや、正確には、僕に繋がる事による増幅と、原理は大差が無いということかな?
僕と繋がる事に慣れていたから、楓はネットを組む事に慣れていたのですよ。
ただ、それを実行するには才能が必要だったでしょうね」
「僕に、超能力を使う才能があるって言う事?」
半信半疑で、楓は紗斗里にそう訊ねた。
「その通り。香霧ちゃんより強い超能力を使えるのは、何も繋いでいるメモリーワイヤーの数が多いからという理由だけではありませんよ。
楓には、超能力を使う才能があるのです」
「じゃあ、デュ・ラ・ハーンに感染してなくても、僕は超能力者になっていた可能性もあったの?」
「いや、その確率はゼロに近いね。
才能があるというのは、ただそれだけで結果に結び付く可能性は低い。
超能力者になる為の専門の訓練を受けて努力していれば、そうなっていたかも知れないという程度ですよ。
それが如何なる方法によるものが良いものなのかは分かりませんが、楓は、それに近いものを経験していたからこそ、デュ・ラ・ハーンという刺激を切っ掛けに、才能が開花したということです。
ちなみに、楓の経験した訓練と努力とは、僕と繋がっていたことです。
特に、『ネットを組む』ことに関してはね。
さてさて。解説はこの位にして、僕が徹夜で組み上げたプログラムを、楓に投入してみましょうか。
よろしいかな、皆さん?」
「逆効果、ということは無いでしょうね、紗斗里?」
疑問を投げ掛けたのは、一晩ですっかり元に戻った睦月だ。
真剣な眼差しと、楓に向ける笑顔が混在している。
疾風も、その睦月の顔を見て、彼女の冷静沈着な指揮による作業が、これからは行われるのだろうと、安心した。
お陰で、ゆっくりとデュ・ラ・ハーンの内容を検討することが出来る。
「逆効果?まさか、僕がそんな初歩的なミスを犯すとでも?」
「コンピューターにとって、逆の効果を及ぼす命令は、元の命令に極近い事が多々ある筈でしょう?」
苦笑したのか、表情の分からない紗斗里のスピーカーから、「クスッ」という音声が発せられた。
「信用されていないのですね」
「あなたは、人間に限りなく近い知能を手に入れたことによって、人間と同じケアレスミスを犯す可能性が生じたのですからね。
ウィルスや、バグによって」
「ご自身が、そんなことが無い筈なのを、誰よりもご存じなのではありませんか?」
「私一人が、あなたをプログラミングした訳ではありませんからね」
「では、どうされます?このプログラムの投入を諦めますか?実験している時間はありませんよ?」
睦月は、口元を押さえて考え込んだ。その時間、僅か約7秒。僅か約7秒で、その重要な判断を下した。
「投入して頂戴」
「分かりました」
そして3秒。たった3秒で、結果が返って来た。
ピーッ、ピーッ!
「拒絶された!?何故?!
……!楓のこの記憶、まさか、デュ・ラ・ハーンにはデュ・ラ・ハーン以外の人格も含まれているのか!?」
返って来たのは、BEEP音が二回。何が起こったのかは、紗斗里が言った事から推察するしかない。
「いや、違う。人格を形成するプログラムは共有されている。
制作者の記憶がデータ化して残されているのか!」
「何!?何が起こったの?!報告しなさい、紗斗里!」
睦月は表情の変化を、目を丸くするだけに収め、命令口調で紗斗里に訊ねた。
「あ、ママにも紗斗里にも言い忘れていたね。
今日、香霧と遊んでいたら、変なオジサンの声が聞こえてきたんだ。まるで、テレパシーみたいに。
それに、時々、デュ・ラ・ハーンの声が聞こえてくるんだ」
「僕は、楓の記憶が読み取れるから、報告の必要は無い。必要な場合、僕から報告する。
そんなことより、困ったぞ。
この二つ目の人格、デュ・ラ・ハーンのプログラムの改変を拒むように設定されている。
……どうして昨日は気付かなかったんだ?
……ん?プログラムが、昨日と変わっている!」
「マジかよぉ~」
デュ・ラ・ハーンのプログラムを読んでいた疾風が、悲鳴を上げた。
これで、1からやり直しだ。