第13話 憐憫の情
「そんな……もう感染しているなんて……」
3人の誰もが、楓と睦月とに憐憫の情を催した。
睦月は勿論、楓自身も、子供ながら睦月の人生経験をメモリーワイヤーを通じて得ているので、3人の様子から、3人がどのような思いを二人に対して抱いたかを悟っていた。
だが、二人がその結果から、抱いた気持ちは違っていた。
同情されることによって、余計に自分と楓とが哀れに思える睦月に対し、楓は――
「でも、こんなことも出来るようになったんだよ?」
と、椅子の一つを浮かせて見せた。驚く5人を見て、楓は自慢げですらあった。
「超能力覚醒ソフトでもあるという噂は本当だったのか……。
式城先生。この能力は残す方向性でワクチンを開発するつもりですか?」
疾風の言葉に、睦月は首をブンブンと振りながら答えた。
「そんなもの、どうでもいいから、お願い!楓を助けて!」
「式城先生!」
温厚な疾風が、珍しく叫んだ。
「あなたが冷静でいなければ、誰が冷静に作業に取り掛かれますか!
情熱的でいてはいけないとは言いません。いえ、むしろその方が良いのかも知れませんが、少なくとも冷静な作業の結果にしか、デュ・ラ・ハーンのワクチンの誕生は有り得ないのですぞ!
それが、それを取り仕切る立場にあるあなたが感情的になって、誰が冷静に作業に取り掛かれましょう!?
式城先生。いつも通りの沈着冷静なあなたに戻って下さい。さすれば、自然と道は拓けましょう」
「……ありがとう。
では、風魔君。あなたはデュ・ラ・ハーンの分析を。
小柴君、あなたはインターネットと紗斗里との接続の準備を。
残りの二人は風魔君の助手として、早速、働き始めてちょうだい」
「「「「了解」」」」
4人が働き始めた。それを見ていた睦月の袖を引っ張る者が居た。楓である。
「僕はどうすればいいの?」
「いつも通り、紗斗里と一緒に、皆のお手伝いをして頂戴。良いわね?」
「うん!」
疾風からも、催促が来た。
「さあ、楓ちゃん。紗斗里と接続するから、この椅子に座って」
「はーい」
子供にはちょっと高く、いつもは誰かに抱えて貰って乗っている椅子に、楓は危なげなく飛び乗った。
飛び乗ったというより、浮いたまま椅子に座れる位置に移動したという感じである。
「風魔君。楓と紗斗里との接続は、一つの賭けですが、よろしいかしら?」
「問題ありません。紗斗里のウィルス対策は万全ですから」
「……デュ・ラ・ハーンが、データや紗斗里本体を破壊する可能性は?」
「デュ・ラ・ハーンがウィルスである以上、その前に、紗斗里が拒絶します」
睦月は安心した。
彼女は、楓と紗斗里とを繋ぐこと自体に対して議論を重ねなければと危惧していたのだ。
だが、高校時代からウィルス駆逐家として有名だった、対ウィルスの専門家である疾風が言うのなら、間違いない。
問題なく、楓と紗斗里とを接続出来る。と、思った。
「繋ぎます」