アンチサイ能力

第8話 アンチサイ能力

「香霧ぃ。

 ひょっとすると、レオパルドを使うと、自分のサイコワイヤーも出せなくなるの?」
 
「ううん。

 レオパルドの場合、お兄ちゃんは外部からのサイコワイヤーによる干渉を防ぐ膜が出来るみたいなこと言ってたけど、私が使った感触では、自分と自分の身に纏うものが、サイコワイヤーを拒絶する性質を獲得するって感じなの。
 
 つまり、レオパルドは皮膚と同化するから、皮膚の表面に出来るサイコワイヤーは、その生成と伸縮を邪魔されないわ。
 
 ただ、それは皮膚を晒している部分に限っての事。服に覆われた部分は、服にレオパルドによる効果を与えている限り、サイコワイヤーはそれを突破できないから、手や顔、首筋辺りから伸ばすか、服の隙間から出さなければ使えなくなるけど……大した問題じゃないわ」
 
「服の隙間って、服を生成している繊維の隙間からっていうこと?」

「目の粗い服なら、それも出来るかもね。試した訳じゃ無いから、確かな事は言えないけど。

 私の言っているのは、服のそですそからっていうこと。
 
 私の場合、3本しか出せないから、それで不自由する事は何もないわ。
 
 楓ちゃんみたいに、100本も出せる場合はどうなるか、分からないけど。
 
 何はともあれ、ものは試し。案ずるより生むが易し。
 
 やってみようよ」
 
 香霧は人差し指を一振りし、小首を傾げて「ねっ?」と問いかけた。
 
「で、具体的にどうすれば良い?」

「全身で、超能力を拒絶するの。私のやった感じ、ライオンより少し難しいわ。

 でも、楓ちゃんなら簡単にやってのけるよね?
 
 私が夜中の11時過ぎまでお兄ちゃんに教わった能力を、ものの10分程度でやってのけようとしているんだから」
 
「超能力を、拒絶する……。

 それって、自分自身の超能力も拒絶する事には繋がらないの?」
 
 呟きながらイメージしていた楓が、ふと疑問を感じて、香霧に問い掛けた。
 
「ううん。そんなことにはならないわ。

 大丈夫。イメージしてみて」
 
 今度は何も言わず、目を瞑ってイメージしてみた。
 
「……出来た……かなぁ?」

 自分の感覚ではそれが出来上がったと思って、目を開けて自分の両手を見つめてみた。
 
 ライオンのような、外見上の変化は見られない。
 
 問いかけるように言ったのは、香霧に確認してもらう為だ。
 
「どれどれ?」

 期待通り、香霧はサイコワイヤーを楓と繋いでみようとした。だが。
 
「あっ!拒絶された!

 楓ちゃん、出来てるよ!」
 
「……そう?」

 楓の感覚としては、何となく良くない気分だ。香霧のサイコワイヤーは、楓に接触しているように見えるのだ。
 
 サイコワイヤーが接触しているということは、相手に自分の自由を受け渡しているに等しい。
 
 相手が信頼している香霧で無かったら、楓はそのサイコワイヤーをCATしていただろう。
 
 次に楓は、サイコワイヤーを全力で解放してみた。
 
 香霧の指摘通り、レオパルドの能力は使用者の服にまでその影響を与えているらしく、サイコワイヤーが服を貫通する事は無かった。
 
 だが、最も使い易い両手から発するサイコワイヤーを妨げる事は無く、問題とはならない。
 
「僕としては、ライオンと……あのCATする方法を併用する方がしっくり来るような気がする。

 そうそう、これとライオンを併用する練習もするんだっけ。
 
 よっ、と」
 
 ライオンが楓の掛け声で発動した。香霧とのサイコワイヤーが接触したまま。
 
 だから、香霧には分かった。
 
「凄い、楓ちゃん!一発で成功してる!」

 そう、ライオンとレオパルドの併用が成功している事が。
 
「……試しに、同時にCATしてみるかな?

 ところで香霧。CATする超能力はなんて名前の超能力なの?」
 
「そのまま、キャットよ。

 三つ同時かぁ。私は、試そうともしなかったな。
 
 じゃあ、私はサイコワイヤーを全部楓ちゃんに接触させるから、楓ちゃんはサイコワイヤーを出して、CATしてみて。
 
 成功しているかどうかは、私が鑑定してあげる」
 
 楓は、香霧のサイコワイヤーが3本とも自分に接触しているのを確認してから、右手で2本、左手で1本のサイコワイヤーを出した。
 
 自分に接触しているだけあって、CATするのは容易だった。
 
「もう一つ、アンチサイがあるって言ってたよね?

 この際だから、全部同時に発動させてみる。
 
 だから、もう一つのアンチサイのやり方を教えてくれる?」
 
「最初っから難しいことに取り組むの?

 順番に練習しようよ」
 
 楓は口を尖らせてこう言い返した。
 
「香霧なら、『楓ちゃんなら、きっと出来るよ。やって見せて』とでも言ってくれると、少し期待してたのに」

「あー、ゴメーン。そこまで気が回らなかった。

 そうね。きっと、楓ちゃんなら出来るよね。……良し。
 
 最後のアンチサイはね。パンサーって言って、ある一定の範囲内で、サイコワイヤーを使わない超能力を、全て封じてしまうというものなの。
 
 けど、それを発動させた人には自由に超能力を使えるから、空間支配能力ってお兄ちゃんは言ってた。
 
 楓ちゃんのCATが繰り出すサイコワイヤーの数なら、きっと誰にも負けないから、1対1なら完全に支配出来るようになると思う。
 
 やり方はね、レオパルドを、その発動する範囲を自分と自分の服だけに限定せず、広い空間に投影する感じ。
 
 そうすると、サイコワイヤーを封じる程の能力は無いけど、他の能力なら全て封じる空間が出来上がってしまうの。
 
 ただ、それは飽くまでもイメージだからね。
 
 実際にレオパルドが範囲を拡大する形にならないから、パンサーを使った本人は超能力を使えるわけ。
 
 全く違う超能力だけど、超能力をジャミングするという点では共通点を持っているだけだから。
 
 じゃあ、やってみて。やるからには、成功させてね!」
 
「うん!」