ライオン

第7話 ライオン

 楓はゆっくり目を開けた。
 
「どうだった、楓ちゃん?テレパシーで会話を聞いていたのに、多分、ジャミングされたんだと思うんだけど、聞けなかったのよね。

 どんな話したの?そもそも、会話出来たの?」
 
「会話は、出来たよ」

 楓はゆっくりと話す。
 
「僕のパワーは他人とは桁違いの、とんでもないものなんだって。

 だから、多少消費したところで、相対的に分かりづらいんだって。
 
 ……僕、ひょっとすると勘違いをしていたのかも知れない。
 
 デュ・ラ・ハーンの言う1年の寿命って、デュ・ラ・ハーンが僕らに与える負担の限界が、1年後なんだと思ってた。
 
 けど、デュ・ラ・ハーンはどんどん超能力を使え、って。
 
 僕の考えだと、それだと寿命を縮めると思っていた。だけど違う。
 
 使い続けていたら、脳への負担がどんどん積み重なって、寿命を縮めるなんて考えてたのも、逆だ!
 
 デュ・ラ・ハーンの1年の寿命は、能力を使っても使わなくても、縮まる事は無い。――恐らく。
 
 逆に、デュ・ラ・ハーンを使いこなせば、1年後にやって来る死神を、迎撃出来るんだ!
 
 だから、この超能力、もっと使ってみたい。
 
 もっと教えて、香霧!」
 
「うん!

 アンチサイの、CATを教えたところだったよね。残るアンチサイは、大きく分けて3つ。
 
 一つは、さっきも一度言ったかも知れないけど、物理的にも効果のある、ライオン。
 
 もう一つは、サイコワイヤーは防げないけれど、サイコワイヤーを使わない超能力の発動を防ぐ効果のあるパンサー。
 
 最後の一つは、何と、サイコワイヤーが通過できないバリアというか、膜を生み出すレオパルド。
 
 さあ、どれから練習する?」
 
 最後の一つを聞いて、楓は「えっ?」という顔をした。
 
「サイコワイヤーって、CATする以外の方法では封じられないんじゃなかった?」

「そうよ。

 だから、レオパルドならサイコワイヤーの通過を防ぐことは出来るけど、消滅させたり、膜の外でのサイコワイヤーの効果を消したりすることは出来ないの。
 
 コレとライオンは一長一短で、ライオンは、学校で楓ちゃんがやっていたように、サイコワイヤーでベクトルを与えられた小石や何かは防げるけど、サイコワイヤーの侵入は防げない。
 
 レオパルドはその逆よ。
 
 ついでにレオパルドは、超能力の効果のほとんどを消す効果があるから、3つとも、ドラゴンによる攻撃は防ぐことが出来るわ。
 
 だから、どれか一つでも良いから覚えておいた方が良いと思う。
 
 さあ、どれからにする?」
 
「じゃあ、物理的な干渉も防げるライオンから」

「オッケー!

 実は、それから来るんじゃないかと予想していたんだ。
 
 要領は簡単よ。自分を十分に包める大きさの球を、自分を中心に思い描くの。
 
 そうすれば、反射的に侵入を許す地面や空気以外の物理的な干渉は、私の知る限り全て防げるから。
 
 まあ、ガスみたいな気体の危険物を防ぐフィルターみたいな効果は、あるのかどうか分からないけど。
 
 サイコワイヤーの侵入を許す位だから、防げないとは思うけどね。
 
 ……ん?楓ちゃん、目なんか瞑って、どうしたの?」
 
 香霧に不意に呼び掛けられ、楓はビクッと震えてから答えた。
 
「デュ・ラ・ハーンに聞けないかと思って」

 香霧は返す。
 
「で、どうだった?」

 楓は答える。
 
「自分で考えろ、だってさ」

「そう言われたの?」

「ううん。何も答えてくれなかった」

「だから、そう解釈かいしゃくしたの?」

「うん」

 楓は頷いた。
 
 頷いた時、ふとある疑問が脳裏を過った。
 
 早速、楓はその質問を香霧にぶつけてみることにした。
 
「ねえ、香霧。

 そのライオンとレオパルドを同時に発動させることは出来ないの?」
 
「ある程度練習すれば、出来るようになると思うよ。

 私にもさっきみたいに、ドラゴンとワイバーンを同時に発動させる事が出来るし。
 
 問題は相性の良し悪しね。ドラゴンとワイバーンは相性が良いんだってさ。
 
 ライオンとレオパルドを同時に発動させるなんて発想は私には無かったから、お兄ちゃんにもそれが出来るかどうかなんて聞いていないし。
 
 やってみるつもりなら、早く見せてよ。楓ちゃんなら、やってのけそうな気がする。
 
 まずはライオンね。目を瞑って、自分を包む球をイメージして。
 
 それから、その球を物理的な干渉を防ぐ壁と化すようなイメージを送り込みながら、一気にエネルギーを注ぎ込んで」
 
 言われるままに楓は目を瞑り、イメージを確立し、そこに超能力を使うパワーを送り込んだ。
 
 未だ、パワーを消費したという感覚は現れない。自分には一体どれほどのパワーがあるのだろうと考えてから、自分が今、ライオンを確立しようとしていたことを思い出し、目を開いた。
 
「良し。安定してる。

 楓ちゃん、もう目を開けてもいいわよ。ライオン、成功している」
 
「もう開けてる」

 二人の目には、楓を包むバリアーが見えていた。
 
 だが、デュ・ラ・ハーンに感染していない人が傍から見たら、その人にはその球が見えていないことを、二人は知らない。
 
 サイコワイヤーも、ドラゴンの操るエネルギーも、実は同様だった。
 
 それを見る能力も、実はデュ・ラ・ハーンがその使い手に与える能力の一つだったのだ。
 
「次はレオパルド?

 でも、最初はライオンと同時に使うのはやめておいた方がいいと思うよ。
 
 難しい所から始めるなんて、無茶なだけだからね」
 
「分かってる」

 楓はライオンを解いた。
 
 一体、どのくらい超能力を使っていたら、パワーを消費している事が分かるのだろうと思う。
 
 それ以外にも幾つか気になる事があった。
 
 そのパワーは、使ってもいつか回復するものなのだろうか?
 
 そして、感染してから楓の視力が上がったのも、デュ・ラ・ハーンのせいなのだろうか?
 
 そして――