第6話 デュ・ラ・ハーンの声
「楓ちゃん、ずるーい」
地面に降り立つなり、香霧は抗議した。
「これが僕の実力だもん」
「そうだけど」
が、そう言われると反論の余地は無い。
「香霧。空を飛ぶのは、あんまりやらない方が良いんじゃないかな?」
「何で?」
「空を飛んでいる最中に、超能力の使い過ぎで意識を失った場合……分かるでしょ?」
香霧は目をパチクリとさせた。
「何で?
ひょっとして楓ちゃん、自分のパワー残存量が分からないの?」
「『パワー残存量』?何、それ?」
香霧は自慢げに話し始めた。
「文字通りの意味よ。
自分が超能力を使うパワーの、残っている量のこと。
これは、肉体にかかる負担とも大きく関係しているの。
例えば、自分自身のテレポートは、大きくパワーを食うわ。
逆に、軽い物へのテレキネシスなんかは、そんなにパワーを消費しないの。
それを知る能力は、その超能力を使う難易度とは関係無いから、天性の才能で持ち合わせていないと、その感覚を知る事は勿論、憶測する事も出来ないわ。
私のお兄ちゃんも、その能力を持ち合わせてはいない方。加減が出来なくて困るって言ってたわ」
「……パワーが切れたら、どうなるの?」
「気絶するだけ。1時間も経てば、意識を取り戻す程度には回復するわ。
だから、大したことが無いと言えば、大したことはないわ。
でも、おかしいなぁ。疲労している事が分かるくらいなら、パワーの残存量も分かる筈なんだけど……。
楓ちゃんは、疲れている事は分かったのよねぇ?」
「うん」
「疲労の具合で、限界は計れない?」
「ううん」
「だとしたら、最悪ね。疲れるだけ疲れて、限界が分からないなんて。
何とかならないかしら?」
「……。
デュ・ラ・ハーンに聞いてみる」
「エッ!楓ちゃん、デュ・ラ・ハーンと話せるの?」
「確実に、ではないけど。
僕、学校でホワイトボードを直したでしょ?
その時は教えてくれたんだ。こうすれば良いんだ、って」
「へー。
楓ちゃん、ひょっとするとデュ・ラ・ハーンに好かれているのかもね。
私は、最初の一度だけ。
まぁ、話すべき機会が無かったからかも知れないけど。
それに、デュ・ラ・ハーンに感染してから、まだ1日も経ってないし。
試してみて。私も、どんな結果になるのか、知りたいし」
「集中するから、終わるまで話し掛けないでね」
「うん、分かった」
楓はゆっくりと目を閉じた。香霧はそれが終わるのを、わくわくしながら待っていた。
否、待ち切れずに、テレパシーでデュ・ラ・ハーンの声を聞こうと、楓に呼び掛け、サイコワイヤーを一本、繋いで貰った。
香霧のテレパシーは、音声のみの送信のみなのだ。
楓は集中し直して念じる。
『デュ・ラ・ハーン。出て来て、デュ・ラ・ハーン。
お願い、デュ・ラ・ハーン』
楓がデュ・ラ・ハーンを呼ぶ声が香霧にも聞こえた。そして、その直後、ザーッという砂嵐のような雑音が香霧には聞こえた。
正に、その時だった。楓がデュ・ラ・ハーンの声を聞いていたのは。
『Hey、You!ダメ、ダーメ。すぐにMeに頼るのは、Youの悪い癖ネ。
パワー残存量デスカ?特別にヒントをプレゼント!
相対量を考えれば、答えは出るネ。
あとは、Youが考えて下サーイ』
『相対量?うーん……。
つまり、こういうこと?僕のパワーに対して、消費量が少ないから、パワー残存量がそれと分かるほど減っていないということ?』
『Ye-s!Youのパワー、トンデモナイネ!
他人とは桁が違いマース。そんなもの、多少減ったところでワッカリマセン!』
『でも、さっきは立ち上がれないんじゃないかってくらい疲れていたのに』
『肉体の疲労とパワーの限界とは関係アリマセーン。
パワーの限界と比例するのは、肉体そのものの限界デース。
今のYou、疲れてマスカ?』
『そういえば、全然疲れてない』
『Meには、疲労の回復プロセスが仕込まれてイマース。それが追い付かなくなった時が肉体の限界デース。
どんどん、Meを使ってみて下サーイ。パワーの限界、そうすれば分かりマース。
Youのように積極的に能力を使うチャレンジャー、大好きデース。1年の寿命が尽きるまで、どんどん、Meを使ってみて下サーイ。
では、See You♪』