第5話 圧倒的実力差
「……凄い」
顔を真っ青にした香霧が、地面に降り立った。
彼女がこの能力を使ったのは、これが初めて。
その威力を、今、思い知ったのだ。
そして、楓をそれに巻き込みかねなかったことに、蒼褪めているのである。
「これじゃあ、まるっきり兵器じゃない!
お兄ちゃん、何て物を私にくれたのよ!」
一朝一夕に学んだ香霧が使って、この威力である。
適性にもよるのかも知れないが、もしもデュ・ラ・ハーンが誰が使ってもこのくらいの威力を発揮できる代物であるならば、十分に兵器として使うことが出来てしまう。
欠点を挙げるならば、寿命が1年の使い捨てであることぐらいだろうか?
「あっ、楓ちゃん!」
楓が倒れ、立ち上がろうとしているのに気付き、香霧は駆け寄った。……いや、飛び寄ったという方が、正確な表現だろうか?
「大丈夫、楓ちゃん?」
「大丈夫。転んだだけだから」
「事前に練習しておけば、威力に気付いて、楓ちゃんにこんな目に合わせる事はしなかったのに」
香霧はポロポロと涙を流して泣き出してしまった。
「香霧、僕は大丈夫だから、泣かないで」
「ありがとう、楓ちゃん。
でも……」
鼻を啜りながら言う香霧の肩をポンと叩いて、楓は宥めた。
「大丈夫。
それより、あのバリアーみたいなのを生み出す超能力を教えてくれない?」
グスッ。
鼻を啜って、香霧は説明を始めた。
「バリアーを張る手段は二種類。
一つは、ドラゴンの応用。私がさっき使ったのがそれ。
もう一つは、アンチサイの一種。物理的な干渉も防ぐ優れものなの。
どちらも、サイコワイヤーを防ぐことは出来ないけれど、ドラゴンだったら完全に防ぐことが出来るわ。例え、直撃でも。
全部、お兄ちゃんからの受け売りなんだけどね。
原理さえ分かってしまえば、今の私みたいに、練習はほとんどしなくても、大抵の超能力は使えてしまうのがデュ・ラ・ハーンの特徴ね。
だから、これだけの説明で、出来る人は簡単に使えてしまうはずだよ。ドラゴンも、空を飛ぶワイバーンも」
「ちょっと待って。どうして超能力に、そんな名前が付いているの?」
涙を服の袖で拭ってから、香霧は再び説明を始めた。
「私のお兄ちゃん、デュ・ラ・ハーン使いのチーム、通称キラーのうち、日本最大の規模を誇るクルセイダーのメンバーでね。
そのキラーの間では、様々な超能力に、種類やレベルに応じて名前を付けているの。
慣れてくると、使いたい超能力の名前を念じるだけで、それだけを発動させることが出来るようになるって言ってた。
あ、これだけは注意して欲しいんだけど、知らない人の前では、絶対にサイコワイヤーを出さないでね。
キラーの間では、それは喧嘩買いますって合図だから。
他に質問は?」
ニコッと笑った香霧の顔を見て、楓は安心した。
「香霧。そんな能力を使って、疲れない?」
「疲れるよ。元々、使えない筈の能力を使うんだから、負担はあって当たり前じゃない。
特に、自分がテレポートすると疲れるんだよね。
楓ちゃんも疲れたの?」
「うん。少し」
「ガムじゃなくて、疲労を少しでも回復させるために、チョコレートにした方が良かったかな?
でも、下手なことをしたら溶けちゃうし。
あ、アンチサイの練習の途中だったよね。続けようか。
お兄ちゃんに聞けば、CATするにはコツがあるって言ってたから、もっと勉強になったんだろうけど、いないものをどうこう言っても仕方ないよね。
さあ、楓ちゃん。私を追わずに私のサイコワイヤーを追い切れるものなら、捕まえてみなさい!」
香霧は空へと跳躍し、自身のサイコワイヤーも空へと展開した。
「三つ同時に追うから、捕まえられないんだよね。今度は……こうだ!」
香霧には、楓を中心に爆発が起こったように見えた。
その実態は、百余りもの数のサイコワイヤーである。
楓は、全力でサイコワイヤーを展開したのだ。その全てのサイコワイヤーで、楓はまず、香霧の繰り出したサイコワイヤーの一本を追う。
それを捕まえたら次、そのまた次と追って、あっという間に香霧のサイコワイヤーは全て捉えられていた。
「楓ちゃん、ずるーい」