第25話 一番強い奴
普段よりも三割ほど静かな夜は過ぎ、二割ほど暗い朝が始まった。
今朝は、セレスティアル・ヴィジタントの直接の手による放送はなかったものの、普段とはまるで違う朝の番組に、人々は悪夢の続きを実感した。
クルセイダーによる反乱は、強い圧力が掛けられた様子も無く、比較的中立の立場から見た報道が行われ、彼らは人々の密かな期待を集めることとなった。
だが中立とは言っても、セレスティアル・ヴィジタントを非難する番組は、見られない。
中立の立場から見ても、非難されるべきであることは、明らかな筈なのだが。
そんな番組の一つを、隼那は恭次の部屋で見ていた。
見ていると云っても、まるで魂の抜け殻のように虚ろな目をして、寒そうに膝を抱えてうずくまったまま、ただ画面のある方に顔を向けているだけだ。
『睡眠不足に空腹では、出力が下がってしまいますわ。
ほら、もう13パーセントも!
……ねぇ、聞いていらっしゃるの?』
頭の中から聞こえる声の相手をするのも、もう疲れた。
何の反応も見せずに、ただひたすら恭次の帰りを待つ。
スマホが電子のメロディーを奏でる。
だが、恭次からのものではないその着メロには、まるで聞こえていないかのような反応しかしない。
受け取り手の無い電話は、しばらくすると曲の途中で途切れた。
生放送の番組が、街の片隅の光景を描写する。通勤中の人達が、足早に画面を横切った。
「……え?」
今まで何が起こっても無反応だった隼那が、僅かに動いた。
画面の一点を凝視していたかと思うと、勢い良く立ち上がって外へと駆け出した。
画面はスタジオへと切り替わり、女性アナウンサーがニュースを読み上げ始めた。
だが一つ目のニュースを読み終えたところで、何やら焦って断りの言葉が述べられると、画面が再び街角の光景へと切り替わった。
その画面の中央には、髪を赤く染めた凶悪そうな男が写し出されていた。
『セレスティアル・ヴィジタントの一番強い奴、決着をつけようぜ。
場所は、ここ大通公園だ。
見えるだろう。あの噴水の前で待ってるぜ!』
顔の横に掲げた手の中で、炎が踊った。