第11話 疾刀の能力
「けど、ジャミングシステムを使っていれば、使おうとした超能力の方を封じられるのではありませんか?」
「それで完全に封じられるのなら、何故、俺たちのようなキラーが存在出来るんだ?」
言われてみれば、確かにその通りだった。
警察の標準装備に導入されている事は、日本一の性能を誇る証明にもなろう。
輸出されている事も考えれば、世界的にも通用するという事になるのだろうが。
「ダークキャットの密輸ってのは、実は正式な輸出よりずっと前から行われていたんだぜ。
まぁ、密輸のやり易さから言えば、やり易い密輸だったんだろうぜ。何しろ、税関を通っちまうんだ。
キャット型のジャミングシステムとしては、世界一優秀なんじゃないかって噂が、一部で流れたのが原因だ。
で、ソイツの一部が犯罪に使われ、手に負えなかったってぇわけだ。
未だその頃は、あの会社も東京に支社を設立したばかりだったからな。
何処の何て名前の商品なのか、知っている奴は一握りしかいなかった。
そこで、俺たちの出番だ。
……ちょっと離れてくれよ、隼那」
長い話をするつもりなのか、身振りで座るように勧められ、疾刀は腰を下ろした。
恭次も食べかけの弁当は脇に置いた。隼那はその隣に座り、腕を絡めてもたれかかっている。
「俺たちはクルセイダーっていう、世界的なキラーチームに属している。
俺の名前は知っているようだが、改めて自己紹介しておく。
俺は緋神 恭次。コイツが来る迄は、道内の――っつっても、札幌以外にはほとんど居ないんだけどよ。まぁ、リーダー役をやっていた訳だ。
コイツは、安土 隼那。事情があって、しばらくの間、俺の代わりにリーダーになっている。
ちなみに、キラーは知っているか?」
「ええ、勿論」
即座に疾刀は答える。
はっきりと言えば、ライバルに当たる存在だ。知ってて当然の事と言えよう。
「なら、話は早ぇ。
キラーっつっても、皆最初は、超能力を使ってバラバラに遊んでいるだけの連中だったんだ。
そのうち、――ハッカーってのが居るだろ?アレの真似事をし出す奴が出て来た訳だ。
最初の内は、一人でも破れるジャミングシステムばっかりだったんだ。ちょっと長時間、負荷を加え続けるだけでな。
けどそのうち、一人では対抗出来ない位に性能が上がって来た。それならってんで集まり始めて、チームが出来て来る訳だ。
しばらくは、そうやって遊びでキラーやってる連中が増えて行ったんだが、そのうち、そのジャミング破りの技術が売れるようになって来たんだ。
勿論買うのは犯罪をやらかそうって連中ばかりなんだが、そんな奴らには売らないように心掛ける程度の良心の持ち主すら、キラーの中には少なかったんだ」
「じゃあ、あなたたちも?」
疾刀は問い掛けるが、恭次は身振りでそれを制止する。
「最後まで話は聞いてくれ。
そういった犯罪も一時期は増えたんだが、コレには対策の手段が二つある。
一つは、アンチサイの能力者を雇う事。もう一つは、こまめにジャミングシステムのバージョンアップを行う事だ。
最新型のジャミングシステムの相場って、知ってるか?」
「まあ、一応」
先程の質問から考えると、恭次は疾刀の仕事を知らないようだ。
他社の製品も確りとチェックしているので具体的な値段まで知っていたが、返事はぼやかした。
「まだまだジャミングシステムは、高過ぎるんだよ。でも、買わなくちゃ酷い目に合うから、どこもそれなりに買い揃えるんだ。
だが、高過ぎてこまめに買い換えるなんて選択肢は、選べねぇ。だから、アンチサイの能力者が雇われた。
で、アンチサイの能力者に対抗するには、どうしたら良いと思う?」
「……つまりそれが、ジャミングシステムという訳ですか」
「ご名答。
ところで、アンチサイ能力者を雇う時に、困ったことが一つあるんだが、分かるか?」
問われて最初に思い浮かんだのが、賃金の問題だった。
しかし、それではジャミングシステムをこまめに換えるのと、変わらなくなってしまう。
他の考えも思い浮かばず、ギブアップすると恭次が教えてくれた。
「キャット以外は、範囲が狭くて役に立たないんだよ。
そしてキャットは、サイコワイヤーが必要だ。
さてここに、サイコワイヤーを封じる為の専用の、強力なジャミングシステムがある。するとどうなる?」
「それはおかしいですよ。
僕だって、小さなビルの一つ位なら、パンサーで完全にフォロー出来るのに」
「アンタは強いんだよ!
いいか、よーく聞けよ。
俺たちの実験の結果、キャット以外のアンチサイで10メートル離れた場所に効果を及ぼすだけの能力の持ち主は、全体の0.1%だ。
最高記録は22メートル。
世界中でおよそ100万人のデータを集めた結果がコレだぜ?
そんな奴らが、一つの会社を守る為にどれだけの人数が必要で、どれだけの賃金が支払われて雇われているのか、考えてみろよ!」
「そうだったんですか!」
疾刀は心底驚いて、感嘆の声を上げた。
夕方に空を飛んでいた外人を落とした時には、優に10メートル――いや、20メートル以上離れていた。
「で、キャットの方の話の続きだ。
一番使われている方法を教えてやるよ。
まずは、自分に対しては作動しないように、ダークキャットの設定を行う。
次にそれを持って建物に近付き、作動させてアンチサイの能力者を無効化する。
ダークキャットの最新型は、最大で100メートル以上も効果範囲があるから、簡単な事だ。
こっからは詳しくは話せねぇが、どっかから――大抵はキラーからだが――買った技術で、ジャミングシステムを沈黙させる。
場合によっては壊しちまうが、目立たないように一時的に黙らせる方が主流だ。
相手の使っているジャミングシステムは、あらかじめ調べておくか、幾つか無効化の手段を用意しておくかのどちらかだな。
あとは楽なもんで、ヴァイパー辺りを使って、テレポート輸送だ。
ちなみに現在一番有効な防御手段は、あの式城 紗斗里が発明した、良く服に使われているコーティングだ。
アレでビルの外壁や金庫の周囲をコーティングしておけば、サイコワイヤーを通せる程度の穴を作る事が可能であることは確認されているが、纏まった範囲を透視の対象に出来ないから、中が見えないんだ。
それこそ派手に範囲内の物を全部テレポート輸送するなんて強引な手段でも使われていなけりゃあ、大丈夫だ」
しっかりと説明されて、自分たちが開発している商品が犯罪に使われている事を知り、疾刀は何かいたたまれないような気持になった。
が、それでも、その話の中に疑問点を見付けたので、もしかすると作り話なのではないかという気持ちで聞くことにした。
「ダークキャットでは、それなりの能力者が相手だと、封じられないと思うのですが」