勝利の余韻

第42話 勝利の余韻

 騒然とする観衆と。
 
 呆然とする仲間たち。
 
「はっはっは。I am winner!」

「ズルいぞ、蒼木」

 勝利の余韻よいんひたっていた俺の気分を台無しにしたのは、圭の痛烈な一言だった。
 
「何がズルいってんだ!」

「「「「全部」」」」

 三人は勿論、美菜姉ちゃんまでもが声を揃えた。
 
「お~ま~え~ら~は~」

 特にケント。一撃で勝負を決めておいて、俺の事をどうこう言えるような立場じゃないだろう!
 
「試作品だし」

「さっさと試合に行け!美菜姉ちゃんは!」

 まずは天敵を追い払う。
 
「そもそも、コイツは存在そのものが卑怯なんだよな」

 圭の言葉に、やけに力強く、真次とケントが頷く。
 
「破廉恥だし」

 真次の言葉に、やけに力強く、圭とケントが頷く。
 
「頭悪いし」

「お前も試合だろ!」

 ケントは蹴飛ばす。
 
「もう一つ、大事な事を忘れていた」

「まだ言うつもりか、この口は!」

 戻って来たケントの頬をギュッと左右に引き伸ばすと、口の利けないケントに代わって二人が代弁した。
 
「「乱暴だし」」

「……」

 流石に何も言い返せず、俺は黙って手を離した。
 
「羅閃!ちょっと来なさい!」

 幸いにも、美菜姉ちゃんに呼ばれたお陰で、それ以上の悪口雑言あっこうぞうごんは聞かずに済んだ。
 
 あんな従姉でも、たまには役に立つこともあるもんだ。
 
「どうかしたのか?」

 筐体の扉を開き、中を覗き込んだっまま困った顔をしている美菜姉ちゃん。
 
 コイツが困っているのは良い事だと思いながら、俺は駆け寄る。
 
「……ほら、さっさと出なよ、百合音。

 いつまでも泣いていると、羅閃に嫌われるわよ」
 
 近付くにつれ、筐体の中からしゃくり泣くような声が聞こえて来た。
 
 その近くでは、係員までもが対処に躊躇い、困り果てた顔をしている。
 
「いい加減にしなさい!」

 短気な美菜姉ちゃんがキレた。
 
 ちなみに俺が嫌うのは、そういうすぐにキレる女なんだけどな、美菜姉ちゃん。
 
「いつまでも、ピーピー、ピーピー泣いていないで!

 これが最後のチャンスって訳じゃ、無いでしょう!
 
 ほら!羅閃!」
 
 筐体から強引に引っ張り出された降籏さんが、俺に向かって投げつけられた。
 
 下手に触る訳にもいかず、簡単には受け止められなくて、2・3歩たたらを踏む。
 
 そのまま彼女は、俺に抱き付く形で泣き続けた。
 
「試合が終わってもまだ泣いてたら、二人とも張り飛ばすからね!」

 つまり。
 
 俺は降籏さんの頭を見下ろしながら、状況を的確に判断する。
 
 俺が慰めろ、と?
 
「いいわね!」

 バァンと、乱暴に扉が閉ざされた。
 
「……」

 ポリポリと、頭を掻いてみたりする。
 
 ……諦めて、ぶん殴られよう。既に慣れてるし。
 
 取り立てて、問題は……。
 
 まぁ、試合が見れない事くらいか。
 
 ……少々迷ってから。
 
「ちょっとゴメン」

 おもむろに降籏さんをその体勢のままで抱き上げて、ぎこちない足運びで移動する。
 
 多少、目立ってしまうのは仕方が無い。今さらという話もある。
 
 気がつけば。
 
 美菜姉ちゃんは見事に瞬殺され(でかした、ケント!)、降籏さんは何故か泣き止んでいた。
 
「アンタ、こんな短時間で。

 一体、どんな魔法使ったの?」
 
 筐体から出て来た美菜姉ちゃんがそう言ったのも、無理はあるまい。