第15話 予選の仕組み
「で、7戦7敗?」
「昨日は惜しかったんだぞ!他のプレイヤーには負けてないし!」
大会当日。会場である『ヴァルハラ』に向かう電車の中で、俺は真次と話していた。
「まぁ、良いんじゃないの?技は覚えたんだろ?」
「負けても、2000点は約束されているからな。何とか間に合った」
間に合ったのは、やはり他の試合で一度も負けなかったおかげだろう。
あれ以来、連日現れるジャンヌ・ダルクは一度も負けることなく連勝記録を伸ばし、信じられない事にその数は2倍を超えて86にまで達していた。
彼女は旧世紀の遺物などでは無い。神憑り的な強さを備えた、ゲームの中の英雄、人によっては女神とまで呼ばれている。
この一週間で40もの試合をこなしたのも凄いが、それを全て勝っているのだから、大会に出れば優勝は間違いないだろう。
既に彼女の噂は、一種の都市伝説と化していると言っても過言では無い。
「降籏さんに聞けば、プレイヤーも分かるかもな」
真次は何気無くそう呟く。
「プレイヤーを限定するのは、無理じゃないか?」
「いや、試合数が異様に多いから、もしかしたらスピリットの社員じゃないかと思ったんだけどね。
この時期に空いている筐体なんて、そこしか無いだろ?」
「連勝すれば、関係ないだろ?」
現にその方法で試合数を稼いでいた俺にとっては、それを異様に多い数とは思えない。
とはいえ、俺の倍近く戦っているのだから、少し驚きはしたが。
「……それもそうだな。
それに、特定したところで、見も知りもしない人なら、『へぇー、そう』で片付くしな」
どちらにしろ、同じ会場で大会に参加して来るのなら、そのうち分かる事だろう。
尾鰭がついたどころでは済まない噂を頼りにするより、ずっと良い。
だが確かに、真次の言うよう、見も知りもしない人なら、『へぇー、そう』で済む。
そのうち電車も目的の駅で止まり、俺たちと同じ方向へ進む者もちらほらと見られた。
初日の今日は団体戦の予選のみだから、明日はこの倍となっていることだろう。
「おーい、こっちこっち!」
「お、いた」
混み合う店内に圭とケントの姿を見つけ、俺たちは近付いて行く。
近付いてから分かったのだが、そこには降籏さんもいた。
「やあ、おはよう」
「おはようございます」
前に会った時に何があったのかなんてちっとも覚えていなかった為、俺は心地好く挨拶を交わす事が出来た。
彼女の方も、機嫌は良い様子だった。
「じゃあ、受付に行っとくわ」
「頼むぞ、ケント」
混雑しているとはいえ、まだギュウギュウ詰めと言うには程遠い具合なので、ケントは五人分のIDカードを持ち、人と人の隙間を縫って行く。
恐らく、これが明日になれば、人を掻き分けて進まなければならなくなるだろうと、真次が言っていた。
「今年はテレビでも放送するって聞いたけど、カメラは見えなかったな」
「放送するったって、深夜だろ?」
「らしいね」
「なら、予選は撮らないんじゃないか?」
圭と真次の会話を聞きながら、俺は圭と同じく、予選までは撮影しないだろうと思った。
「ちなみに、団体戦って何チーム位出場しているか、分かる?」
俺は降籏さんに話し掛ける。
「予選は1000チーム前後で、本選に進めるのは32チームです」
圭と真次が二人で話すとなると、俺は自然と彼女と話すという構図が出来てしまう。
「ところで、団体戦ってどうやるの?」
「……知らなかったんですか、蒼木さん」
驚いたというよりも呆れたような表情で、彼女は俺を見上げた。
「いや……最初は単なる頭数でしかなかったから……」
「……じゃあ、一から説明しますね。
第一次予選は、五人ずつがそれぞれ一対一で戦います」
「……第一次予選?」
「はい。これをある回数勝ち上がれば、本戦に進めます。今回は7回だと思いますけど。
この時、負けたチームは第二次予選への出場を申し込む事が出来ます」
「つまり、敗者復活戦ってこと?」
「ええ。この時は5対5による勝ち抜き戦になります。
そのトーナメントで、32の枠の内の余った分を競い合うことになります」
「……それって、敗者復活戦の方が時間が掛かるんじゃない?」
「そうですよ。
でもそうしないと、団体戦なのに、そのうち3人だけが強いチームがストレートで勝ち上がる事になっちゃいますから。
団体戦なんだから、総合的に強いチームが勝つべきだって、私がそうしたんです。
だから敗者復活戦じゃなくて、第二次予選なんです。
そうして決まった32チームでトーナメントを組んで、本戦は文字通りの5対5で戦います。予選のように、一対一じゃなくて」
「詰まるところ……」
俺が気になったのは、一つだ。
「俺たちは第二次予選狙いになってしまうのかな?」
「……どうしてです?」
俺の質問に対して、小首を傾げて逆に訊ねて来た彼女の頭上から、俺は圭と真次の二人を指差した。
「あの二人、趣味に走り過ぎていて、戦力にならないんだ」
降籏さんも負けるだろうと思っていることは、もちろんおくびにも出さない。
「……そうなんですか?」
俺が指差しているのに気付いて、二人が振り返った。
俺が何と言っていたのかは、この際、知られない方が良いだろう。