スピードの評価

第13話 スピードの評価

 結論から言おう。
 
 俺の勝ちだ。
 
「降籏さんも強かったよ、俺が戦った中じゃ、二番目に」

 彼女にそう言ってなぐさめる余裕もあった。
 
「改めて思ったけど、蒼木って実は卑怯クサイぐらいに動きが良いのな」

「単にジャックが強いだけじゃなかったんだ」

 ……勝ったからと言って、コイツラからの評価は、ほんの少ししか上がらない。
 
「俺は、このゲームはあの速さが一番動きやすいと思って、そうしているんだけどな」

「「「へぇー」」」

 何だ、その疑わしい目つきは?
 
 このゲームはスピードを高めれば高める程、プレイヤーの動きに対してキャラクターの動く距離が増す。
 
 だから、その分、動きが粗くなっている気がしてならない。
 
 大きく動く分にはそれでいいのかも知れない。
 
 が、小回りを利かせるには、スピードは最低値に設定した方が良い。
 
 ついでに言えば、俺にとってはスピードが速い奴の方が動きを予測するのは楽だ。
 
 降籏さんに勝てたのも、その動きの粗さ故の、予測のしやすさによるものだ。
 
 逆に俺は、慣れ親しんだ速さで回避を行える。
 
 性能の差や相性の良し悪しなど、まるで関係が無かった。
 
「降籏さんは動きがスムーズだったから、割と苦戦したけどね」

 落ち込んですっかり大人しくなった彼女の肩を、ポンと優しく叩いてあげる。
 
「別に落ち込む事無いって。本番で使うキャラとは違うんだから」

 言いながらも、俺はあのジャンヌ・ダルクでも持って来られない限り、そうそう負けはしないと思っていたが。
 
「……本番も、ライトタンクを使うつもりでした」

 ポツリと彼女は、そう呟く。
 
「そうなの?自分のキャラ使った方が良いと思うけど」

「けど、やーめた」

 口をとがらせ、キッとするどい目つきで俺を見上げる。
 
 思うのだが、この子ににらむという仕草しぐさ相応ふさわしくないような気がする。
 
 どれだけ目つきを鋭くしても、どうも睨まれているような気がしない。
 
「今日は、もう帰る!

 本番で、私と当たる前に負けたら、許さないから!」
 
 心なしか、涙声になっているように聞こえるその声。
 
「いや……俺、大して強くないし……」

「……大会で、もし私に当たる前に負けてたら、引っ叩いてやるから!」

 ……何か、子供と言い争っている気になってきた。
 
 口に出しては言えないが、口調が完全にお子様だ。
 
 ……この子、一体、何歳なんだろう?
 
「じゃあね!」

 立ち去る彼女の背中を眺めながら、ふとある事に気が付いた。
 
 ……彼女、スピリットの社員ってことは、社会人……つまり、年上なんだよな?