判決『ギルティ』

第12話 判決『ギルティ』

「判決を言い渡す!」

 ガンッ!
 
 ケントはファーストフードショップの安っぽいテーブルを叩き、姿勢を正して真っ直ぐに俺を見据みすえた。
 
「ギルティ~」

 圭が茶々を入れる。
 
 右手親指だけを突き立てて、あとの指は握り、その親指で首の前を横切らせると、下に向けた。
 
 いわゆる、『処刑しょけい』を意味するジェスチャーだ。
 
「やかましい」

 俺は言うが、ケントはそんなことなど気にせずに、先を続けた。
 
「結婚を前提とした、清く正しい交際を!」

「異議有り!」

 いつもの調子でボケたのだと思い、俺は即座に返す。
 
「俺も、それはどうかと思うな」

「俺も俺も!」

 真次が不満を唱え、圭もそれに同意する。
 
「……降籏さんも、それは嫌でしょう?」

 俺が顔を向けてそう訊ねるも、彼女はソッポを向いてしまう。
 
「蒼木が来る前に圭が口説いたところの話だが。

 彼女の返事は『私に勝てたら考えてあげますよ』というものだった。
 
 改めて確認したが、その意志に変わりは無いそうだ。
 
 というわけで、幸いにも蒼木にはその資格があることだし。
 
 以後、就職浪人は勿論のこと、1年たりとも留年は許さん!」
 
「ちょっと待て!」

「何だ?」

 ケントのその真面目な表情に、俺は一抹いちまつの不安を覚えた。
 
「ふざけて言ってるんだよな?」

「私は至って真面目だが」

 口調ばかりか、一人称の扱いまで変えて、ケントが言う。
 
「いや、しかし……そもそも彼女は嫌がっているだろ?」

「単に怒っているだけだ。問題は無い」

 意外な答えが返って来た。
 
「……へ?嫌がってない?」

「自分より弱い相手と付き合うよりは、良いそうだ。

 ちなみに使用キャラに関わらず、彼女があのゲームで負けたのは、アレが初めてだそうだ」
 
「ウソつけ。連勝記録を見れば、そんなの一目瞭然いちもくりょうぜんだぞ」

「仕事の関係上、一つのキャラを使い続ける事は無いらしい」

 納得。だがしかし、そんなことは言ってみれば、どうでもいいことだ。
 
「ちなみに降籏さんは、それでいいの?」

 別にその条件で納得した訳では無いのだが、彼女が首を横に振れば、それで万事解決するだろうと思って声を掛けた。
 
 今回は彼女も俺の方を向いてくれたのだが、鋭い目つきで俺を睨んできた。
 
 迫力はちっともさっぱり感じられないけど。
 
「条件があります」

「……何?」

 コイツはラッキー。その条件さえ飲まなければ、この話は立ち消えとなる訳だ。
 
「もう一度、今度は既成のキャラクターで私と戦って、それであなたが勝ったら、さっきの事は許してあげます」

「……負けたら?」

「あなたのジャックをいただきます!」

「「「異議無し!」」」

 三人が声を揃え、俺は馬鹿みたいにあんぐりと口を開いた。
 
「ちょ、ちょっとソレは……」

 洒落にならない。そもそもそんな条件を飲んでしまっては、大会に出られなくなってしまうではないか!
 
「文句を言う権利は無いな」

「そうそう。団体戦はチームの一人以上が10万点を超えていればいいことだし。

 ……あ、けど、団体戦の時はジャックを使わせてやって欲しいな」
 
 それぞれ勝手な事を言うものだ。他人事だと思って……。
 
「……個人戦は?」

「まーた来~年~♪」

 圭が楽しそうに手をヒラヒラと振る。
 
 大会の予選は、次の土曜から。
 
 一日四試合やって、全勝なら……いや、甘い考えは止めにする事にしよう。
 
 タンクタイプの上級者と戦った場合、善戦は出来るだろうが勝つ自信は無い。
 
「受けるな?」

「っつうか、断る権利無いし」

 俺が返事をする前に、圭が勝手に結論を出す。
 
「ちなみに勝負の条件は?」

 断れるなら、断りたいものだ。
 
 だがしかし、今はソレが許されそうな雰囲気では無い。
 
「ライトタンクとヘヴィータンクを含めた、CPUキャラの中から好きなキャラクターを選んで、一回勝負」

「……ヘヴィータンクの性能は?」

「タンクより、攻撃的なシフト。

 必殺技も、プロテクターとビームキャノンの二つでタンクと同じ。
 
 但し、プロテクターは最新の必殺ガードを使っているから、性能は上がっています」
 
「スピードは?」

 これが一番、重要なポイントだ。ライトタンクは、俺の戦い方には合わない。
 
「タンクと同じで、最低値です」

 返って来た答えは、俺の望んだ通りのものだった。
 
「んじゃ、ソイツで」

「二言は無いな?」

 圭が身を乗り出して指を突き付け、念を押す。
 
「……ああ。仕方ない」

 要は勝てば良いのだ、勝てば。
 
「「よっしゃあ!」」

 圭とケントがガッツポーズを取る。……何だ、何だぁ?
 
「ライトタンクと相性悪いのは分かりそうなもんなのに、よく選んだな」

 呆れた顔で、真次が言う。
 
「……そうか?」

 俺がこのゲームのスピードの扱い方に対する感想を、言うべきか否か……。
 
「私は、ライトタンクを使います」

「あっそ。じゃあ、早めに済ませようか」

 ジャックが賭けられているなんて、冗談じゃない。
 
 ムッとした顔の彼女を尻目に、俺はさっさと席を立ち、心の中では既に戦略を考えていた。
 
 欠片の遊びも入れるつもりは無い。
 
 彼女には気の毒だが、こっちは全員分の昼食代まで払わされるという理不尽な扱いまで受けているのだ。
 
 これ以上の不当な扱いを受けてなるものか!