第15話 第三層踏破
十分な休養を取った一行は。
第三層に入るべく、準備を整えた。
出来れば、一度で第三層の全ての罠を駆逐したい。
ヴィジーはそう思っていたが、そう上手く行くものかと云う疑問も同時に持っていた。
第三層には、最短距離を通って、一度もモンスターに出くわさなかったので、三日で着いた。最速での記録である。
戦闘に備えて体力を温存する為には、これ以上のペースは出せない。
「皆、一週間は覚悟してくれ。そうして第三層を踏破したら、一旦帰る」
ヴィジーはモチベーションを上げる為にそう提案した。
「今から一週間……。覚悟を決めなければならないわね」
ミアイがそう言い、フラウも同じ覚悟を決めた。
ヴィジーは、ひょっとしたら行けるかも、と思った発言だった。
第四層まで至るルートを一日と少しをかけて進むと、今度は脇道に逸れるルートの罠を潰し始めた。
やっぱり、脇道の方が罠は多い。第四層まで至るルートを通るパーティーが罠を何とかしてくれているので、本線には罠が一つも無かった。
だが、一歩脇道に入ると、罠の山である。
故に、罠の除去は次々と行われるが、第三層の踏破までは遅々として進まなかった。
結果、一週間で半分しか進まなかった。
ミアイとフラウは、テンションが限界かと思われたが、フラウがハマったカードゲームに、ミアイも参戦する事で、何とかテンションを維持出来ていた。
「皆、第三層の踏破には、凡そあと一週間かかるが、ついて来てくれるか?」
「ワタクシはよろしくってよ」
一番心配だったミアイがそう言う。フラウも、コクリと頷く。
「私は親分に従うです!」
「オレも親ビンに従うだす!」
竜人二人も追従した。
この、迷宮内と云う危険地帯で、カードゲームを楽しむことは、テンションを上げる事に大きく貢献しているらしかった。
こんな事なら、もっと早くにカードゲームを導入すべきだったとヴィジーは思うが、決して遅かったタイミングでは無かった。
休憩は充分に取らせて。
魔力の回復が追い付く程度にはヴィジーもアイヲエルも休憩を取り。
計約二週間で第三層を踏破した。
すぐさまに、と云うにはヴィジーも魔力の余裕は無く、一晩休んだ後で、一行は転移魔法で一気に迷宮から脱出した。
それからまた、三日は休みを取ることになる。
休憩は、長ければいいと云う話でも無いのだ。養われた英気が最高潮から引き下がる前に、また迷宮に潜らなければならない。
オーダーメイドした防寒着が出来ていれば、王城から取り付けた罠除去の依頼も、第三層までの全てを除去していれば、達成条件として充分ではあったのだが。
何せ、第四層は中層の手前の最後のフロア。ここで腕試しして、自信が付いたら中層へ潜ると云うパーティーも少なくない。
即ち、トラップは発動して、使い捨てのトラップなら除去されている可能性がかなり高い。
故に、第四層は実入りが悪い。
その為、ヴィジーは第四層は『可能ならば』と云う条件を取り付けて依頼を受けて来ている。
『風神国』としても、第四層の全ての罠の除去は、出来れば避けて貰いたいと云うのが本音であった。──中層へ潜るパーティーが、罠対策を万全にしている事を前提としておきたいと云う都合が故に。
そこで、防寒着の出来次第で判断する事となった。
防具屋に行ってみると、全員分の防寒着が完成していた。
早過ぎはしないかと思い、急がせてしまったかと申し訳なく思い、訊き出してみると。
「最近、オーダーメイドしてくれる人が少なくてねぇ……」
どうやら、他の注文が無かったが故に、最速で作成してくれたらしかった。
後払いの半額を支払って、商品を受け取り、身に着けて感触を確かめると。
流石の、プロの手に因る防寒着であった。とても暖かく、曝け出す部位も最低限だ。
序でに、既製品の手袋を買い、一行は判断を決めなければならなくなった。
「どうする?」
ヴィジーがアイヲエルに訊ねると。
「皆が良ければ、『氷皇国』に行きたいと思う!」
「『氷皇国』へレッツゴーです!」
「『氷皇国』へレッツだゴーだす!」
竜人二人もアイヲエルに追従した。
ミアイ・フラウは立場を明らかにしない。中立を保つ。
ヴィジーも、『風神国』から第四層の扱いについての意見を聞いていたので、判断を下す。
「良し、『氷皇国』へ向かってみよう!」
斯くして、一行の『氷皇国』行きが決まったのだが。
アイヲエルは、未だ、イザとなったら甘えられる、と云う余裕を失う事態をあまり深刻には捉えておらず。
ヴィジーは、その事実に気づいていたが、今回は、自力で自覚しなければ成長しない、と云う鬼の判断を下し。
そうして、ようやく旅らしい旅が始まるわけで。
一行は『氷皇国』の王都行きの馬車を借り切って乗り合い。
そして、アイヲエルは初めて貧しい国と云う場所に行くことの、困難さに未だ気付いていないのだった。
だがそれでも、決断を下してしまった以上、その方向性に動き出すことは、中々止め難いこととなってしまった。
今回の判断の責任者はアイヲエル。それは決定事項だ。
そして、事態は動き始める。
それは、如何なる運命の下に動くことであるのか。
それは、誰にも分からない。
強いて言うなら、この世界の管理者ならば、何か傾向ぐらいは分かっているのかも知れなかった。
そう、その残酷な迄の運命を。
それを避けるどころか、真っ向から向かって行く道のりを。
犠牲者を出さないことなど、所詮、無理であったのだと云う事実。
そこへ向かって、一直線に一行は向かって行く。
ヴィジーですら予測していなかった事態は、刻一刻と近付いて来る。
思えば、アイヲエルが楽観視していたのが原因で、それでも、対策を打ったが故の、仕方のない犠牲者が出ようとしていた。
その犠牲者本人は、その事態を知る筈も無く、今はただニヘラニヘラと笑っていた。
もう、一行は最悪の想定すらしておらず、運命に導かれるままに進んで行く。