第5話 人類の愚かさ
大和カンパニー札幌本社三階、第二開発室。
そこに、隼那は訪れた。
「何の御用ですか?」
責任者たる、チーフの篠山 多紀は、真っ先に隼那を問い詰めた。
「最新作のダークキャットを売って頂きたい」
隼那は隼那で、かなりの無茶を言って寄越す。
「ソレは、試作機と云う事ですか?」
「完成したダークキャットの、最新作をです」
「お断り致します!
どうしても欲しいのでしたら、正規のルートでご購入下さい。
ココで直に取り引きをする訳には参りません!」
「そこを何とか……」
多紀は「ハァ……」と息を吐いて、こう言う。
「怪しいアポイントメントだと聞いていたけど、風魔君の顔を立ててお話は伺いました。
ですが、ソレは応じる訳にはいかない用件です!
……一部、不法な使用法をしていることも、聞き及んでおりますから」
ダメか……と、思ったその時、トコトコと12歳頃に見える少女が隼那に歩み寄った。
「安土さん。『Alexander』の料金、未だ振り込まれていないんですけど……」
一瞬、『助け舟か!』と思った隼那に、少女――楓は追い打ちをした。
「――なる早で振り込むわ。ゴメンナサイね。
1億円だったかしら?」
「私には、貴方たちに支払い能力があるのか、疑問なんだけど」
高いと思われるかも知れない。だが、軍事利用の余地があるサイコソフトとなると、その位の値は付くものだ。
だが、国際的組織である『クルセイダー』には、ソレだけの支払い能力があった。――例え、褒められた稼ぎ方では無かったとしても。
「アメリカ支部にでも支払いを要請するわ。
ロシア支部は国内情勢が怪しいから、出し渋ると思うし」
そして、恐らく中国支部は『そのサイコソフトを寄越せ』と言ってくる気配濃厚だ。
アメリカ支部は、『セレスティアル・ヴィジタント』の暴走の件で、日本支部に対して負い目がある。
サイコソフト一つの支払い位は、躊躇わないだろうと云う話だ。
「ところで、『柊木 治』君の件について相談したいの。
新しく見つけた、『Swan』使いの男の子。
ただ、適性はあるけれど、ソフトの在庫が無いのよねぇ~」
「1億円出すなら、また作るよ?」
「お願い!コッチはその内利潤が上がるから、私たちとしても嬉しい訳よ。
何しろ、どんな病気でも治せると言ったら、3000万円位、ポーンと出してくれるお金持ちもいるしね。
でも――セレスティアル・ヴィジタントが開発したサイコソフト『Camellia』の、『呪い』と云う効果を無効化出来ないのが難点なんだけれども」
サイコソフトの、8割~9割が『式城 紗斗里』と云う人工知能で作られているが、『Camellia』は、セレスティアル・ヴィジタントが開発したサイコソフトだ。
『式城 紗斗里』は、『呪い』の実在を疑っていたし、『解呪』のサイコソフトの開発も難航していたから、そのようなサイコソフトは設計していながらも、制作しなかった。
それを以て、『アメリカに塩』と『式城 紗斗里』は珍しく意思表示したし、ロシアの北海道侵攻の可能性が示されているのを知ってからは、『ロシアに塩』と、未だ名付けても居ないサイコソフトで『呪い』をばら撒いていた。
何故、『解呪』のサイコソフトに難航したか。ソレは、『呪い』のサイコソフトの設計の際に、自らも『呪い』に掛かってしまい、機能に異常を来したからだ。
その『呪い」は、13年間は解けない『呪い』であったし、掛かってから未だ、3~4年しか経っていない。
『式城 紗斗里』が機能を万全にするのも、あと9~10年近くは掛かってしまう訳だ。
その前にロシアによる北海道侵攻がある可能性は否めない。
だがしかし、いつから人類はこんなに愚かになってしまったのだろう……?
要求を通す為に武力を行使する。そして、その勝者の側に『正義』と云う言い訳を与える。
武力を行使した時点で、『悪魔』に魂を売るに等しい行為だと、何故気が付かないのか。
恐らく、だからこそ、『怒り』を司る魔王がサタンが、七つの大罪を司る魔王の中で最凶最悪であるが所以なのだろう。
更に恐らく、複数の宗教の聖地である土地を巡っての泥沼の抗争も、その地で教祖の再誕が起こる可能性が濃厚だから、その権利を掴もうと、そう云う魂胆であろうか?
どちらにせよ、隼那も恭次も、その地での戦争に関わるつもりは無い。
恐らくは、勝者が『正義』と嘯くのだ。下手に加担したくは無い。
――ん?ならば、尚更加担した方が良い?
馬鹿か。勝利する手段が暴力である以上、その罪罰は勝者にも及ぶ。
和解させれば最善であろうが、喧嘩両成敗と云う言葉がある。
暴力を使った喧嘩をしたのだから、両者平等に罰を受けろと言っては、双方共に納得しないだろう。
だから、余程上手な仲裁で無ければ、双方共に納得する問題ではない。
それ故、加担しないのが最善と、『クルセイダー』内部では思われるのであった。