シューティング

第14話 シューティング

「君たち、この国に不満は無いかね?」

 随分唐突に、おかしなことを聞くなと思いながら、その時は他人事のようにレズィンは聞いていた。
 
「……ペンギンさんがいない」

 その返事に、中将たちの顔が見る見る歪んで、困り果てた顔になる。
 
 いい加減、他のテーブルには腹を抱えて口元を塞ぎ、笑いを堪えている者も居る。
 
 レズィンもこればかりは、誤魔化しなのか本気なのか、計りかねた。
 
 少なくとも、調査隊の事に不満を持っている事を隠しているのは確かだ。
 
「ペ、ペンギン……」

 よほど予想と逸れた返答なのか、中将はそれっきり暫く絶句したまま凍り付く。
 
 突然、レズィンはある事に気が付いて中将と同じ様に凍り付く。
 
 先程の中将のセリフの、何かがおかしかった。ちなみにペンギンの方では無い。
 
 そちらもかなり可笑しいが、意味が違う。その一つ前だ。
 
「この国に……不満があるか、だと?」

 小さな声で呟き、それまでの会話を思い出して検討する。
 
 幾つかの可能性に思い当たったが、どれも大差が無い。
 
 この場にリットが居る事を思い出し、顔をそちらに向ける。
 
 古くからの友人とあって向こうでも察してくれたらしく、ただ、小さく頷いて示してくれた。
 
「帰るぞ、二人共!

 中将殿、申し訳ないが、そちらの事情を聞く訳にはいかない。
 
 助力は出来ないが、応援している。
 
 頑張ってくれ。
 
 じゃあな」
 
「ま、待ってくれ!

 そうだ!君には不満があるだろう。全ては皇帝の策略だ!話を訊けば判る!
 
 頼む!我々にはより多くの助力が必要なのだ!」
 
 中将の願いには、残念ながらレズィンは耳を傾けておらず、もたもたしているラフィアを急かしていた。
 
「閣下はやり方が甘いのだ」

 レズィンが振り返ると、セシュール大佐が席から立ちあがって、懐に手を入れていた。
 
「おいおい、何をするつもりだ?」

「中将殿の屋敷に監禁させていただく。

 よろしいですね、閣下」
 
 云った大佐が銃を取り出し、そして。
 
 パァンッ!
 
 構えたと思った瞬間には弾き飛ばされていた。
 
 レズィンが目を走らせる。誰も銃を構えてはいない。――彼を含めても。
 
 銃声だけは聞こえた。誰の耳にも。
 
 だが、その瞬間に、誰かが動いていたのが見えた者は、ほぼ皆無であった。
 
 銃を弾き飛ばされた大佐本人が、誰よりも驚いていた。
 
 呆気に取られたまま、立ち竦んでいる。
 
 そもそも、少佐以上の地位に居なければ、平常、銃の携帯は許されていない。
 
 持ち出す事も不可能な筈なのだ。
 
「中々の芸だな。

 拍手が欲しいか?」
 
「馬鹿、バラすな!」

 唯一、見えていたのはシヴァン。
 
 そして、付き合いの長いリットにも、見られてはいないが、バレていた。
 
「『煌めく、星の輝きのようなシューティング射撃』。

 もう、私の目にも止まらなくなったか」
 
「リット。お前はどうするんだ?この連中に協力するつもりなのか?」

「次の仕事のアテも無いからな。彼等はそういった者に声を掛けているそうだ」

 つまりは、調査隊に組み込まれた者たちのことだろう。
 
 それは同時に、彼等は集められてから日が浅いということだろうか。
 
「客人扱いで軟禁するという事で、双方納得して貰えないだろうか?

 我々としては、騒ぎを起こす訳にはいかない。
 
 レズィンも、軍の寄宿舎が使えないのだから、泊まる場所にも困っていただろう?」
 
 リットのその提案は、レズィンは実は不満があったが、譲歩せざるを得ない条件だと認識していた。
 
「実は、それほど困っていなかったりするんだが……まあ、リットの顔を立てておいてやるよ。

 そちさらんはどうなんだい?」
 
「あ、ああ。私はそれで構わない。

 大佐もそれで納得してくれるな?」
 
「――閣下がそう仰るのでしたら」

 どうやら丸く収まりそうなところで、レズィンは姉妹の事を思い出した。
 
 自分たちの置かれている状況を、二人はあまり理解していなかったようだが、説得にはさほど苦労せず、ラフィアが食べ終わるまで待って欲しいとごねられた程度であった。