1728倍速

第11話 1728倍速

「いいね、その魔法。

 俺にも教えてくれない?」

 ある時、レイドを組んだメンバーから、そんな提案を持ちかけられた。

 12時間のリキャストタイムを持つ、全体完全回復魔法を見て、そう告げて来たのだ。

「別に構わないけれど……」

 卯辰はその魔法の構成を教えた。だが、そのリキャストタイムを縮める魔法までは、教えない。

「リキャストタイム、12時間か……。

 若干不便だが、使える!」

 そりゃそうだ。何しろ、『戦闘不能』のステータス異常も治す魔法なのだから。

 ひょっとしたら、気付くかも知れない。直接的にリキャストタイムを縮める魔法と、間接的にリキャストタイムを縮める魔法に。

 でも、気付いたら気付いた時の話だ。別に、構いやしない。

 逆に、他の方法でリキャストタイムを縮める方法を見つけてくれたら、卯辰にとってもありがたいことだった。

 そんな折、他のプレイヤーがこんなことを言い出した。

「ログアウトが出来ない!」

 別に、だからと云ってどうした、とは卯辰は思ったものの、一応、自分もログアウト出来ないものか、試してみる事にした。

 結果は、以下の表記が現れた。

『TRUE LOG-IN Y/N』

 それっきり、何も反応しなくなった。

 とりあえず、『Y/N』に答えなければならないらしい。

 卯辰は、『N』を選択した。

 だが、何も変わらなかった。

 三度『N』を選択した後、卯辰は『Y』を選択してみた。

 そうすると、ログインの処理が始まった。

 処理が終わった後、卯辰は再びログアウトを試みるが、反応しない。

 仕方なしに、卯辰はそのままゲームを続けることを選択した。

 その後、約70日強の時間をゲーム内で過ごした後、プレイヤー全員に『謝罪文』が届いた。

 何でも、『1728倍速』でのゲーム内時間の処理と、ソレに伴う、加速剤の適用と、リアルタイム1時間のログアウト不可となった事への謝罪文だった。

 ソレが確かならば、確かにゲーム内時間における『約72日間』のログアウト不可の事情と数値は一致する。

 何はともあれ、事態は解決を迎えたのだ。喜ぶべき事であろう。

 それにしても――

 卯辰は、加速剤に副作用があるのではないかと、少し心配になった。

 だが、大丈夫。

 その加速剤の治験は、十分に問題ないものであると結果が出ていたものであるから。

 因みに、『1728倍速』と云うのは、『12の12倍の12倍』と云う数値であるらしかった。